Little Prince


「やれやれ、、、、 まあ大事じゃなくてよかったといえば、そうだけどな」

家路を辿りながら、アウステリアは呟いた。

シェスタからの使者は一通の手紙を携えていた。

そして文面は、白銀の統括ルトヴァーユの居城で催される
宴につにての相談だった。

企画は、白と黒両統括に任されている。

アウラクアは得意な方面だが、シェスタは苦手。

考えすぎて、どうにも行き詰ったシェスタからの
いわば助けを求める手紙だったのだ。

受け取ったアウラクアは、シェスタを気遣いつつ
宴そのものは楽しんでいるように見えた。


「ただいま、フラウ」

「お帰りなさい。お父様」

「優勝の記念品を頂いたよ」

「ほんと」

「ああ。テーブルで開けてみよう」

「うん」

テーブルに包みを置き、いつものようにフラウと並んだ。

袋を開けると
出てきたのはペンダントとお菓子。

「わあ、お菓子だ」

ペンダントは自分に、お菓子はフラウだろう。

(フラウにも用意してくださったのか)

自分のみならず、フラウにまで気を回してくれたことに
アウステリアは感謝するだけだった。

「おいしそう。お父様、いただいてもいい?」

「ああ、もちろん。お菓子はフラウにだよ」

「いただきます」

フラウの手には少しばかり余る大きさのドーナツを
ぱくりと口に運ぶ。

「美味しいかい」

「うん。甘くておいしい」

満面の笑みのまま、すぐに一個を食べ終わった。

「ごちそうさまでした」

フラウは行儀よく両手を合わせる。

「お父様。アウラクア様に、ありがとうございましたって
 言いに行ってもいい?」

「そうだな、、、、」

場所は統括の居城。

子供を連れていい場所ではないが
フラウの礼を伝えたいという気持ちも無下にしたくない。

「一言くらいなら大丈夫だろう。
 会った人にはご挨拶して行儀よくするんだぞ」

「うん、いい子にする」

フラウは素直に頷いた。

いつかはフラウも独り立ちの日がくるだろう。

羽ばたくその日まで守るのだと
アウステリアは大きな翼で優しく包み込んだ。



「おや、アウステリア殿。ご子息ですか」

「ええ。フラウです」

「こんにちは。フラウです」

「こんにちは」

アウステリアはフラウを連れて城にあがった。

にこりと笑い挨拶をするフラウに
すれ違う相手も目を細める。

そして、アウラクアの部屋の前に立った。

「アウステリアです。よろしいですか」

「どうぞ。開いてるよ」

先に入り、扉を押さえてフラウを中に入れる。

「本日は、フラウも一緒にあがらせて頂きました」

「ようこそ、いらっしゃい」

アウラクアは小さな客人に優しく声をかける。

そして膝を折り、視線を下げた。

「どう?美味しかった?」

「はい。えと、、、ありがとうございました」

「えらい、えらい。
 親がしっかりしてると、子供も立派になるんだね」

ぽふぽふと、アウラクアの手が頭に乗った。

「この前と同じお菓子でよければ食べてく?
 採れたばかりの花の蜜があるよ」

「ほんと?あ、あの」

フラウは顔をほころばせたが、すぐに下を向いた。

アウラクアはその反応に気を悪くすることもなく
アウステリアに向いた。

「急ぎのものってある?」

「いえ、今のところはありません」

「じゃあ、2人とも座って」

くるりと向きを変え、アウラクラはお茶は支度にかかる。

「お父様」

「ご馳走になっていこう」

フラウの背中を押してソファーに座る。

アウラクラは手早く揃えると、自分も腰を下ろした。

「どうぞ」

「いただきます」

フラウが手を伸ばし、口に入れた。
やはり満面の笑みが浮かぶ。

「好きなだけ食べていいからね」

「ありがとうございます」

おいしそうにお菓子を運ぶフラウを
2人の優しい眼差しが包んでいた。




城を下がり家に戻ってからも
フラウはにこにこと機嫌がいい。

「お父様、アウラクア様って綺麗で優しいね」

「ああ」

「お母様と同じくらい」

「そうだな、、、、フラウ?今何て言った?」

「え、お母様と同じくらい、アウラクア様綺麗で優しいって」

(女性だと思ってるのか?)

確かに子供の目で一度会っただけでは
間違うのも無理はないだろう。

アウラクアのためにも訂正するべきなのだが
”男性でドレスを着ている”という事実を
どう説明すればいいのだろう。

「お父様?えっと、、、いけないこと言った?」

「いや、そうじゃないんだが」

やはりここはアウラクアの名誉のため。

誤解がどんな噂話に化けるか、わからないと
アウステリアは腹を決めた。

「フラウ、1つ知っておいてほしい事があるんだ」

「なあに、お父様」

「アウラクア様は、男の方だよ」

「え、、、、でも」

フラウの脳裏には城で会ったアウラクアの姿が浮かぶ。

「アウラクア様のお洋服って、お母様と同じ、、、、」

「それについては、追及しないでくれ」

「うん、、、、わかった」

そして別の疑問が浮かぶ。

「じゃあ、お父様もアウラクア様と同じお洋服を着ることあるの?」

「いや、それだけは絶対にない」

アウステリアは力を込めて即答した。

万一そんな命令がきても絶対断るとの決意を持って。

「僕も、、、大きくなったら」

(着てみたいとは言わないだろうな)

文武両道、上司として尊敬できるアウラクアだが
唯一引っ掛かるとすればそこだろう。

「フラウ、アウラクア様はアウラクア様。お前はお前だ。
 アウラクア様が着ているからといって
 自分が着ることを考えなくてもいいんだよ」

「わかった。お父様のいうこときくね」

知らず必死になっているアウステリアに
小さく首を傾けるも、そこはまだ
大好きな父の言葉を素直に受け取るフラウであった。


フラウを寝かしつけたアウステリアは
グラスを琥珀色に満たした。

「まったく、フラウのドレス姿なんて冗談じゃないぞ。
 ん、待てよ、シェスタ様もあの時、、、、」

アウステリアは
以前シェスタの城に足を向けた時のことを思い出した。

黒の統括シェスタもまた、ロングドレスを纏っていたような。

華やかさではアウラクアに軍配が上がるが
漆黒のドレスに深い紫色の髪が映え
落ち着きを感じさせる佇まいだった。

「統括だからといって
 ドレス着用の義務があるわけじゃないよな」

ならば、個人の趣味ということなのだろうか。

それが、たまたま両統括に当てはまった。

「やめた、、、、わからん」

フラウに言った言葉ではないが
追及するのはためらわれ考えるのをやめた。

服装は別にして、上司として不満はない。

「ま、好みは人それぞれだからな」

軽く呟き、静かにグラスをかたむけた。


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