親子
並行して同時に存在する2つの世界。
一方には背に翼を宿す命が存在し、もう一方には翼を持たぬ命が存在する。
それぞれに息づく地で、日々の営みは続いていた。
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キエヌでも指折りの名門貴族、彩華月。 嫡男である瑞樹宛の荷物を持ち、執事のファルアは廊下を歩いていた。 (まあ、当然といえば当然だが) 荷物は見合いの申し込みを意味する貴族令嬢の写真。 瑞樹の元に毎日のように送られてくる。 受け取る瑞樹も、立場上仕方ないと判ってはいる様子なのだが 廊下の角を曲がり瑞樹の部屋が近くなった時 そしてファルアの手にある物を目にとめると、小さなため息を落とす。 「またか」 「おそらくは。お部屋にお持ちします」 「判ってはいるんだけどな」 「瑞樹様」 名門貴族の嫡男。 身を固め、家督の相続も考えなければならない。 結婚相手はこの彩華月の女主人となるのだから それには多くの女性と会うことも必要だと。 そしてもう一つ大切にしなければならない想いがある。「愁馬様ですか」 「ああ。この家の女主人てことは愁馬の母親ってことだ」 愁馬は瑞樹の友人夫婦の忘れ形見。 瑞樹が自分の意志で引き取り共に暮らしている。 最初の頃は、実の親を大切にしてほしいとの考えから だが、愁馬の立場と将来の為には養子に迎えることが最善。 そうなれば母親も必要になるし、愁馬にも家督相続の権利が生まれる。 そして、迎えた女性との間に血の繋がった子供が生まれ 「私が親になったら、血のつながらない子供も実の子供も 自分にも父の再婚相手の連れ子である弟がいる。 今は和解しているが、弟も、義理の母も、父のことも 同じ想いを、愁馬にもさせてしまうのだろうか。 「愁馬を引き取ったことは、間違いだったのか、、、、?」 その言葉は愁馬を愛すればこそ。だが、、、、 「瑞樹さん、、、、今、なんて」 その言葉は、影にいた愁馬に届いた。 動けずに耳を澄ます。 「彩華月の名前は愁馬には重いのかな。それならいっそ、、、、」 「僕は、、、、いないほうがいい?」
愁馬はくるりと向きを変え駆けだした。 「愁馬のことを、本当に大切に出来る誰かを探したほうが 「私は愁馬様が引き取られた時の事情を知りません。 「ファルア」 「簡単な問題でないことは判っております。 |
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その日の夕刻。陽が暮れた頃。 「いったい何方に、、、、、」 使用人が屋敷の中を足早に回っていた。 「何を慌てているんですか」 「あ、、、、ファルア様」 使用人の中でも新しいメイドはファルアに一礼した。 「あの、愁馬様の姿がなくて、捜しているんですけど」 「愁馬様が?」 「はい。お一人で外に出られたのか」 画廊「銀月」の手伝いと、家庭教師がついての勉学が愁馬の日常なのだが だとしても、何も言わず出ていくなど今までなかったことだ。 「門場には確認したんですか」 「はい。正面玄関に姿は見せなかったと。いったい何方に」 (まさかあの時の話を) あの時の会話を聞かれたのかと、ふと過った。ならば急がなければ。 「人数を増やして外も捜してください。 そこに 「ファルア!」 帰った瑞樹が駆け寄ってきた。 「愁馬がいないって本当か」 「今その話をしていました。 「はい。失礼します」 メイドを促し、瑞樹と2人になった。 「正面門の門番は姿を見ていないとのことです。 「まさかあの時の話を聞かれたのか」 「その可能性もあるかと」 「私のせいだ、、、、」 「瑞樹様」 「私があんな話を不用意にしたから。愁馬に何かあったら私の」 「いけません。そのようにお考えになっては」 失うかもしれない。それは瑞樹にとって恐怖。 この家にはいないほうがいいと考え、出て行った弟と同じことになる。 そう思ったら居ても立っても居られなくなった。 「捜してくる」 「瑞樹様は屋敷にお留まりください」 「行かせてくれ」 「愁馬様がお戻りになった時、お迎えするのは瑞樹様であるべきです」 強い口調に瑞樹は、はっとなった。 「愁馬様が、あのお話を耳にされて不安を感じたのならばなおの事 「そうか、、、そうだな」 ここにいていいのだと、自分から言ってやりたい。 絡瑛と同じことにならないためにも。 「ありがとう。お前がいてくれてよかった」 「勿体無いお言葉です」 「何か判ったらすぐに知らせてくれ」 「はい」 自室へ引き上げる瑞樹の背中を見送り、ファルアも捜索に加わった。 |
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