Night mare


昼。オルガは、少しでも気分が変わればとフィータを丘へ誘った。

天気もよく抜ける風は肌に心地いい。

不安そうな表情は消えないものの、朝よりは落ち着いているようだ。

「ん、、、、誰かいるな。先客か」

「アズライルさんだ」

先客はアズライルだった。

「そなたたちか」

「こんにちは」

「どうも」

「また会えたの」

「うん」

オルガにぴったりと添ったフィータの返事は短い。

危惧が現実になるのではないか。

そんな不安が過った。

「顔色がすぐれぬようじゃの。眠れておらんのか」

「僕、病気かもしれないって」

「病?どのような」

「まだはっきりと言えるものじゃないんです。
 ただ夢見が悪いみたいで、医者に相談にと思って」

「そうか」

「病気だったら、病院のお部屋にいなきゃいけないんだよね?
 お家にいちゃいけないんだよね?僕、、、、1人になるの?」

「まだそこまで考えずともよい。
 そうなってしまっても、1人ではなく皆で考えるのじゃ。
 病は気からともいうではないか。
 悪い方にばかり考えていては、悪い結果を呼んでしまうぞ」

「僕はいい子でいなきゃいけない。
 いい子でいれば、一緒にいられるんだ」

自分に言い聞かせるように、何度も繰り返す言葉。

大好きなものを失うまいと必死になってるフィータは
アズライルからみても痛々しいほどだった。

「お前はいい子だよ。フィータ」

「オルガ、、、、」

「何を言えば、何をすればお前を安心させてやれるんだ」

オルガはフィータの頬をそっと包む。

「隣にいて、こうして触れるだけじゃダメなのか?
 俺はアリエルとお前と暮らしている今が幸せだよ。
 あったかくて優しい居場所。2人の隣で生きていたい」

手にしたひだまりは、オルガにとっても大切なものだ。

「俺は何があってもお前の味方だから」

「、、、、、うん」

「人の想いは綾糸じゃ」

町を眺めアズライルは呟いた。

「小さないくつもの想い。
 涙と笑みが重なり交差して、日々の営みを織り上げる。
 限りある時間の中で懸命になる心を
 我は美しいとも愛おしいとも、羨ましいとも思うのじゃよ。
 全ての命は何よりも尊く、守るべきもの。
 しかし、そう思うてはいても
 悲しく愚かな行いが多々あるのも、この世界ではあるがな」

陽の光がアズライルを包むように降りそそぐ。

「教会で見る天使さまみたい」

「人は己の中に天使と悪魔の両方を住まわせておる。
 いや、善と悪というべきかの。
 どちらになるかは当人にもわからぬよ」

風が流れた。

「雲行きが変わりそうじゃな」

「え、、、、」

オルガは空を見るが変わった雲も見られなかった。

「おかしい雲には見えないけどな」

「アズライルさん、わかるの?」

「まあ、、、、そんな気がしただけじゃ」

風の精霊が教えてくれたのだが、2人に通じる話ではない。

「フィータ、甘いものは好きか?」

「甘いお菓子?うん、好きだよ」

「では、甘い花の蜜を使った菓子でも持参しよう。
 眠れぬ時には落ち着けるかもしれぬ」

「ありがとう」

「そなたは」

「え、俺ですか?程度にもよりますけど」

「好んではおらんようじゃな。では香辛料のほうが向いておるか」

「すみません、わざわざ」

人がいいというのか親切というのか。

裏表があるようには見えないが
リシュナの気苦労がわかる気がした。

「では、先に戻るゆえ、また後でな」

「はい、リシュナさんにもよろしく伝えてください」

「ばいばい」

歩き出した後ろをつき従うように風が追いかけて行った。

「不思議な人だよな、本当に」

「天使さまだよ、きっと」

「天使ね、、、、、」

神だの天使だの悪魔だの、いたとしてもすがるつもりはない。

だが、もしも見えない何かの力が働いているというのなら願いは一つ。

今いる場所を失わないように。

共に在り続けることを、オルガは願うのだった。


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