Night mare


「、、、、、」

「、、、、、」

アリエル、オルガ共に無言でフィータを待った。

早めに仕事を切り上げて戻ってみれば
一人で外に出たフィータが帰ってこない。

いきさつを聞いたアリエルは、オルガを責めはしなかった。

しかし、苛立ってきたことはオルガにもわかる。

「雨?」

「よりによって、、、、」

2人の耳に、同時に雨の音が届いた。

アリエルは大きく息をした。

「捜索願を出してくる。家にいてくれ」

「アリエル、、、、」

「もう出さないですむと思ってたのに」

オルガに聞かせるつもりはなかった。

だが、それは届いた。

「すまない。本当にこのとおりだ」

「オルガ、、、、」

床に手をついたオルガの肩に、そっと手を乗せた。

「今はそれ以上言わないでくれ。頼む」

「アリエル、、、、」

責めたくはない。だが許すとも言えない。

そんなアリエルの精一杯の言葉。

「行ってくる」

背を向けたアリエルが歩き出した時だった。

「アリエル、オルガ」

「フィータ!」

「アリエル、、、、あの、ごめんなさい」

入ってきたのは3人。

「、、、、、どちら様ですか」

うつむいたフィータを囲むようにいる2人に
アリエルは何と言っていいのかわからなかった。

オルガもどこかちぐはぐな2人に言葉が見つからない。

「雨になりましたので入らせていただきました。
 断りなく失礼いたしました」

「いえ、、、、それでどうしてフィータと一緒に?
 何があったんですか」

「ご説明いたします」


説明に回ったのはリシュナ。

アズライルはフィータと2人で少し離れた。

「私はリシュナ。あちらはアズライル様」

「アリエルです。隣はオルガ」

「簡単にご説明しますと
 ベンチから動こうとしなかったフィータさんに
 私とアズライル様で声をかけました。
 話によると人とぶつかって買った物をいくつか落としたそうです。
 もう一度買いなおして、こちらまでご一緒したしだいです」

「そうでしたか。何と礼を言ったらいいのか。
 本当にありがとうございました」

「ありがとうございました」

「いいえ」

「買いなおした分の代金は手持ちで足りたんですか?
 貸していただいたのならお返しします」

「お店の方が、代金は無しでいいと仰ってくださいました」

ほうと、オルガから安堵のため息が落ちる。

それだけで、どれほど心配をしていたかわかる気がした。

なればこそ、フィータを一人で外に出すのは
無理があるのではないか。

もし誰も声をかけなかったら、ずっと動けずにいただろう。

「失礼かもしれませんが、フィータさんを一人で外に出すのは
 少しばかり無理があるのではありませんか」

「それは俺の判断ミスです。本当に助かりました」

「オルガ、、、、」

リシュナはアズライアルとフィータに目を向けた。

何を話しているのか
フィータの言葉にアズライルは頷き返している。

「フィータさんに懐かれたのかしら」

「フィータもきっとお2人のことは忘れないと思います。
 どちらにお住まいですか。
 訪ねてよければ、こちらからも伺いたいのですが」

「申し訳ありませんが、公にできない事情がありますので
 それはご容赦くださいな」

自分たちの居は湖の向こう側。教えられるはずもない。

雨の音も静かになった。引き上げ時だろう。

「雨も静かになったようですし、戻ります」

「わかりました。近くを通った時は寄ってください」

「ええ、その時は」

僅かに微笑み、リシュナは席を立った。

「アズライル様、そろそろ戻りましょう。
 あまり向こう側を空けられても困ります」

「、、、、、帰るの?」

「アリエルさんとオルガさんは
 心からあなたのことを大切に思っているわ。
 あまり心配させないようにね」

「、、、、、うん」

「達者でな、フィータ」

そっと重なったアズライルの手を、くいと引いた。

「また会える?」

フィータに気休めの約束は通用しない。

会えると言ってしまえば、純粋にそれを信じてしまう。

「約束はできぬ。だが、この広い世界で再会できたなら
 そなたたちとは深い縁があるのだろう」

「また会いたいな」

「人の巡り合わせとは不思議なものじゃ。
 この一時の出会いで我らを心に留めてくれるなら
 それだけで嬉しく思うぞ。我らも願っておるよ」

「フィータ、あまり引き留めても悪いよ」

「アリエル、、、、、うん」

「ではこれで失礼致します」

「お世話になりました」

言って深く礼をしたアリエルにならい、オルガも深く頭を下げた。

後姿が見えなくなるまで、フィータは手を振り続けていた。


フレデリックを抱えなおしたフィータは
アリエルとオルガに向いた。

「よかった。何もなくて」

「ごめんね。お買いもの」

安心を不安を同時に抱えた顔でうつむくフィータの手に
アリエルはそっと重ねた。

「無事に帰ってこれただけでいいよ」

「腹減ったろう。少し早いけど飯にするか」

「うん。おいしいご飯作って」

「任せとけ」

変わりなく見える日常。

フィータのただ一つの願いが少しづつ膨らんでいた。


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