Nigt mare


「サルバス、、、この町は初めてね」

アズライルを追い、リシュナもサルバスへとやってきた。

捜索を頼んだ風の精霊から場所を聞き足早に向かう。

通りを歩くことしばし、ベンチに座った2人が見えた。

「アズライル様?」

確かに精霊から聞いた場所なのだが顔が見える一人は別人で
背中を向けているもう一人は、普段アズライルが着ている服とは
だいぶ違った印象の出で立ちだった。

一度足を止めると、速度を落としてゆっくりと近づく。

「アズライル様」

呼びかけに振り向いたのはアズライル当人だった。

「リシュナ、そなたどうしたのじゃ」

「どうしたって」

自覚のなさにリシュナからはため息が落ちるのだった。

「どうしたではありません。
 どうしてそう落ち着きなく歩かれるんですか。
 それに、そのお姿は」

「ああ、この服か。以前こちらにきた時に見つけたものじゃ。
 美しく、あまり見ないものだったのでな。
 いや、我のことはどうでもよい」

「よくありません!」

ぴく、とフィータが震える。

「今はじゃ。そなたの話はあとで聞くゆえ、騒がずにいてくれ」

「アズライルさん」

遠慮がちに小さな声が呼んだ。

「怖がらずともよい。
 リシュナは我を心配して捜しにきてくれたのじゃ。
 そう、そなたの大切な者も
 そなたを心配して気が気ではなかろう。
 だからな、送るゆえ遅くならないうちに帰ろうではないか」

「どなたです」

「フィータ」

「フィータ、動くでないぞ。すぐ戻るからの」

「ちょっと、アズライル様」

アズライルはリシュナの腕を引き、少しだけ離れた。

「どういうことですか」

「あの者は、おそらく心の病じゃ」

落した物を追いかけて飛び出したこと。

そして会話の中で感じたことをアズライルは慎重に話した。

「あのままにはしておけぬ。だが素直に頷いてはくれなんだ。
 どうしたものかの」

「つまり、その買い物をきちんと終わらせればいいのですね」

「おそらくはな」

「もう一度買い直せばいいと思いますけど」

「そうか」

頷くアズライルにリシュナは頭を抱える思いだった。

そして戻ろうとするアズライルの前に出る。

「今度は私のほうから話してみますわ」

「ふむ、違った者の言葉なら聞き入れてくれるかもしれぬな。
 リシュナ、あまりきつい言い方をするでないぞ」

「わかっています」

リシュナはアズライルがいた位置に座った。

「さっきは驚かせてごめんなさいね」

フィータは首を横に振った。

「もう一度買い直せばいいと思うけれど、お金残ってるの」

「これだけ」

フィータの手に残っているのはわずかな小銭だけだった。

買い直すにしても心もとない額ではある。

「じゃあ、一緒に行きましょう。足りない分は手伝ってあげる」

「ほんと?一緒に行ってくれるの?」

「ええ」

「リシュナ、携えておるのか?」

「こちらに来るときは持っておかないと
 何があるかわかりませんもの。
 アズライル様にもお願いしているはずですよ」

「すぐに戻るつもりだったからの。持ってきてはおらんのだ」

(この方は、、、、どうしてこう)

リシュナは言葉にならなかった。

気を取り直しフィータに微笑む。

「遅くならないうちに行きましょうか。
 アズライル様のいうとおり
 あなたを待ってる人が心配するもの。
 買い物が終わったら家に帰りましょうね」

「うん」

アズライル、リシュナ、フィータ。

はたから見れば妙な組み合わせの3人は市場に向かった。


「フィータ、どうしたんだい。それにこちらは」

デニス婦人の前に立ったのはフィータとリシュナの2人。

どうしたってアズライルは目立ちすぎると、リシュナは距離を置いた。

「あのね、お買い物落としちゃったんだ」

「ベンチに座りっぱなしで動こうとしないので声をかけたら
 人とぶつかっていくつか駄目にしたそうなんです」

「そう。よかったねフィータ、親切な人に気づいてもらえて。
 ありがとうございます。あたしからもお礼を言わせてください」

「いえ。それで、足りなくなったものを
 もう一度頂きたいのですけれど」

「わかりました。フィータ、さっきのメモと抱えてるものかしとくれ」

「はい」

デニス婦人は受け取った両方を見比べ追加していった。

「これで全部だね。お待たせ」

「デニスさん、お金足りる?」

「不足分はお支払します」

差し出された手を、デニス婦人はそっと返した。

「いいよ、これくらい。大した額じゃないからおまけ」

「でも」

「けじめはけじめですもの。このままでは」

「いいからいいから。あなたが声をかけてくれなかったら
 日が暮れて夜になっても帰らなかったかもしれない。
 この子は、そういう子なんです」

デニス婦人はフィータをあやすように髪をなでた。

「さ、早くお帰り。オルガたち心配してるよ」

「ありがとう。デニスさん」

「お手数おかけしました」

そろってお辞儀をし、2人は店を後にした。


「お待たせしました、アズライル様」

「お買いもの終わったよ」

「そうか。では参ろう」

「アズライル様、あまり目立たないでくださいと」

「事情を家の者に説明できるとは思えぬ。
 そこまでは声をかけた我の責任じゃ」

「アズライル様、、、、」

何もせずとも目立つこの姿であまり歩かせたくないが
アズライルの言うこともわかる。

確かにフィータが筋道をつけて説明できるかは疑問だ。

下手に自分たちのことを話されるよりは
同行したほうが利口かもしれない。

「わかりました。ご一緒します」

「先に戻っていてもかまわぬぞ」

「ここまで来たのですから、最後まで付き合いますわ」

「そうか。すまぬな」

「さ、行きましょう。お家、どこなの」

「えっと、あっち」

3人でフィータの示した方向へ歩き出した。


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