

Night mare
同時に並行して存在する2つの世界。
片側には翼を宿す命が住んでいる。
そして精霊という存在があった。
その中でも、地・風・火・水は世界を創る基本となるもの。
これらに宿る魂を精霊と呼び、翼を持つ者にとっては共存が当たり前である。
精霊全てを統べるとされるのが精霊王。
精霊側のまとめ役であり、代表ともいえる。
精霊王の住む宮に仕えるリシュナは
宮の主アズライルを探し歩いていた。
「アズライル様ー」
呼んでも己の声が響くだけだった。
「まったく、本当に落ち着かないのだから」
外出となれば見当はついている。
翼を持たない命が住むもう一つの世界だろう。
そちら側では精霊の存在は認識されていない。
存在はするのだが
風も土も水も火も当たり前に存在する『物』でしかない。
魂が宿ると考えられることはなく
まして言葉を交わすなどできない世界なのだ。
自分たちにとっては当たり前のことが忘れ去られた世界。
だからこそ、足を向ける。アズライルの口癖だった。
「だからといって、頻繁に空けられても困るのよ」
精霊王に求められているのは存在そのもの。
何かをするのではなく、存在することが役目なのだ。
アズライルが望む望まないに関わらず。
「今日こそは言わないと」
すっと息を吸い、リシュナはアズライルを追った。
宿場町サルバス。人と物が行き交うこの町は、いつも賑やかだった。
通りにはいくつもの宿屋が並ぶ。弟と友人と暮らすアリエルも、そんな宿屋の主の一人。
「おはよう、アリエル」
「おはよう」
リビングには弟のフィータがいた。
くまのぬいぐるみフレデリックを隣に置き、無邪気な笑顔を向ける。
「オルガは」
「まだお部屋だと思うよ。今朝は会ってない」
「あいつが最後なんて珍しいな」
3人の中でオルガが最後になるのは珍しい。
アリエルの視線は、オルガの部屋の方向に向いた。
とはいえ、普通が必ずとは限らない。
たまにはこんなこともあるのだろうと、お茶の支度を始めた。
「フィータは」
「うん。ありがと」
明るい返事が返る。
そんなフィータを見るアリエルは複雑だった。
幼子のまま時を止め
生きている友達のようにフレデリックと接している。
そしてそんなアリエルに返ってくる表情もいつも同じ。
「アリエル?」
きょとんと不思議そうに見つめ返すフィータに、やはり同じ言葉を返すのだ。
「、、、、、何でもない」
「アリエル、お腹すいた」
「待ってろ」
いつか、もしかしたら。
捨てきれない望みを抱いたまま、アリエルは朝食の支度にかかった。
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「オルガ、来ないね」 「いくらなんでも遅すぎるな」 先に朝食をすませ、仕事に出る間際になってもオルガは来ない。 「見てくる。フレデリックもいこ」 フレデリックを抱き上げたフィータがリビングを出ようとした時 「おはよう、オルガ」 「ああ、、、遅くなって悪かったな。時間だろう」 「具合でも悪いのか?」 「いや」 アリエルの問いに簡単に答え、ソファーに座った。 その隣にフィータも戻る。 「朝ごはん、できてるよ」 「もう少し後でな」 朝だというのに、オルガは一日の終わりのように脱力していた。 何よりも不自然なのは、正面からフィータを見ようとしないこと。 それにはフィータも気がついたようで、オルガの顔を覗きこむ。 そして額に手を当てた。熱い。 「だめだよ。寝てなきゃ」 「フィータ」 「僕に言ってる。ここが熱いときは寝てなきゃだめだって」 「そういうことか」 「アリエル、、、、、」 「いつからだ」 「昨日の夜、、、、何となくだるくて、熱出したのは多分今朝」 「フィータの言う通りだ。静かに寝てろ」 「けど」 オルガの心配はアリエルにもわかる。 もしも外に出て一人になったら何処へ行くかわからない。 道で可愛い猫でも見つけようものなら追いかけるだろう。 それがフィータ。 「フィータ、オルガが部屋で休んでいても留守番できるな」 「うん。いい子にしてる」 「出来るだけ早く帰るから、オルガに黙って外に行かないこと。 「わかった」 素直に返事はするが それでも、信じるしかないのだ。 「オルガ、お部屋行こう」 「アリエル、、、、、」 「早く治してもらったほうが助かるよ」 「悪い」 「お前が謝ることじゃない。行ってくる」 「いってらっしゃい。お留守番してるね」 「オルガ、無理するなよ」 「ああ」 家を出るアリエルを見送り 「オルガ、欲しいものある?」 「ありがとう。水だけ置いといてもらえればいいよ」 「わかった。あとフレデリックは」 「フレデリック?」 「うん。一人じゃつまらないでしょう」 オルガもアリエルと同じように、この幼さを危惧している。 だからこそ、守りたいと思う。 「フレデリックはフィータといたいだろう。俺はいいよ」 「そう。じゃあ、お水だけ持ってくる」 リビングに戻るフィータを見る眼差しは、どこか悲しげだった。 |
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