重なる環


花を飾り終えたジャステアは、闇戯の部屋の扉をたたいた。

「闇戯様、よろしいですか」

「開いてますよ」

入ると同時に、背中を向けていた闇戯が振り返った。

怒っている雰囲気はなく
いつものように、真っすぐ瞳が入り込んでくる。

「あの、私も1つ謝らなければいけないことが」

「気がついた時点で話しておけば
 塞ぎこむことなどなかったでしょうに。
 私が知る知らずに関係なく、あなたは自分を責める」

「闇戯様?」

「これを落としたから、塞いでいたのでしょう」

闇戯の腕には二重の環があった。

ジャステアは、言葉なく闇戯を見つめる。

「丘に落ちていたそうです。
 拾った人が、そのまま保管してくれていたから無傷ですよ」

「、、、、どうしても言いだせなかったのです。
 黙ったままではいけないと、わかってはいたのですが。
 本当に、申し訳ありませんでした」

「理由もわからずに塞ぎこまれたままでは
 見ているこちらも、どうしたらいいのかわかりません。
 気になることがあれば、お互い言えるようにしましょう」

「はい」

ジャステアの手に腕飾りが乗った。

闇戯もこれで一安心できた。

「あの、闇戯様がお持ちということは
 闇戯様がご存じの方が、拾って下さったのですか?」

「これを見つけたのはキエヌに住む”人”です。
 簡単に説明しておくと」

闇戯は、ランスとアージュのことを簡単に話した。

「水の精霊と人が、共に暮らしているなんて」

「人と言っても、彼の場合は同じくくりにはできないでしょう。
 まして宝刀の使い手なのだから、複雑だと思いますよ」

「営みは様々なのですね」

「命の在り方は様々だけれど、生きている事実は変わらない。
 精霊も人も。有翼も、私たちも」

「闇戯様」

「命があるのなら生きようとする。それだけです。
 、、、、言うほど、簡単ではないけれどね」

「闇戯様と共になら、どんな困難にあおうとも
 生きていきます」

「ジャステア、、、、、」

環が重なるように、2つの魂がそっと寄り添う。


ランスの店の場所を聞き
ジャステアはキエヌに足を向けた。

「キエヌの写真屋。ここか」

中に入り、奥に向かって一声かける。

「いらっしゃいませ」

表に出たのはランス。

「あなたがランスさん?」

「ええ。そうですが」

「私、ジャステアと申します。
 こちら確かに受け取りました」

見せた腕には、あの腕飾りがあった。

「あなたが。どうぞ」

ランスは奥へと案内した。

 


「アージュ」

「はい」

「あの腕飾り、無事に戻ったみたいだよ」

「え、、、、」

アージュは隣に立つジャステアを見る。

受けたジャステアは軽い会釈を返した。

「ジャステアと申します」

「初めまして。アージュです」

「急ぎでなければ座ってください」

「では、失礼して」

改めて向かい合う。

「本当にありがとうございました。
 どこで落としたのかすら気がつかなくて」

「落としたというよりも
 草に引っ掛かって外れたんでしょう。
 ともあれ、お手元に戻って何よりです」

「繊細で綺麗ですよね。
 闇戯さんとお揃いなのも、素敵だなって思いました」

「、、、、、」

水の精霊であるアージュは何か気づいただろうか

ホムンクルスである闇戯の何かに。

尋ねようとして、ジャステアはやめた。

劣化が進んでいるとしても己の心は変わらない。

その時まで闇戯と共に在ると。

「ありがとう。
 装飾が多いものより、これくらいのほうが私も好きです。
 同じものをあつらえて下さった闇戯様の御心と一緒に
 持っていたいと思っています」

添えた手は、見えない闇戯の心に触れているのだろう。

強く深い想いを、2人は感じ取った。

紅水晶がいつまでもつかは、わからない。

けれど終焉の時には寄り添っていられると、信じたい。

「お花、見てもらえましたか」

「ええ。見ていて優しくなるような、そんな色でした」

「えっと、、、闇戯さんから聞いてますか?私たちのこと」

「あなたは水の精霊。
 ランスさんは、向こう側の血脈を受け継ぐ
 宝刀の使い手なのですよね」

「ええ」

宝刀の使い手。

この言葉に動じないランスにジャステアもまた
ランスの心は覚悟を持って決まっていると察した。

闇戯の言った通り、どこであろうと今存在する地で
生きようとすることが、命の持つ不変の掟。

「闇戯様が仰っていました。
 精霊も人も、有翼も私たちも同じ命。
 どこで生きようと、生きている事実は変わらないと」

同じ言葉を受けたアージュは
アトリエでの闇戯を思い出す。

ジャステアがいるから、闇戯も生きようとするのだと。

「せっかく会えたご縁ですし、また足を向けさせてください」

「もちろん、どうぞ。いいですよね」

「ええ。さして変わったものもありませんが」

「新しい出会いは、己の違う何かを気づかせてくれる。
 それだけで意味を持つものです」

「なるほど。哲学をお持ちのようだ」

「哲学といえるほどではありませんよ」

ランスと気が合うのかもしれない。

興味を引いたのだろう。僅かに口元が動き頷いた。

「僕もまたの機会を楽しみにしています」

「よければ、闇戯さんと写真撮りにきてくださいね」

「、、、、、そうですね。
 受けて下さるかはわかりませんが、お誘いしてみましょう」

緩やかに、時間は過ぎていった。




 








そして暫く後。

「まさか本当に受けて下さるなんて」

ジャステアの手元には一枚の写真があった。

改まった緊張感はなく、いるのが当たり前というように寄り添う2人。

「闇戯様、、、、ありがとうございます」

そっと、胸に抱きしめた。


   BACK