重なる環


「一体何処で」

腕飾りを失くしたことに気が付いてから数日。

必死に探すも出てこなかった。

キエヌのを歩いている時に落としたのだろうか。

あの人の中だ。

見つかっても壊れている可能性は高い。

「はぁ、、、、」

ジャステアの大きなため息を
風の精霊が聞きとめた。

「どうしたの。
 こんな気持ちのいい空なのに大きな溜息ね」

「大切な物を失くしてしまって」

「此処でなの?」

「何処だかわからないのです。
 屋敷の中はくまなく探したつもりですが
 出てきませんでした。
 外で落としたとなると、何処を探したらいいのか」

「何を失くしたの」

「腕飾りです。
 細い金の台に、石が幾つか付いている」

「金色の腕飾りね。ちょっと待って」

ザアッと風が鳴った。

その向こうで精霊が会話をしている。

暫くすると、精霊は1つ知らせを持ってきた。

「ここで腕飾りを拾った人がいるみたいよ」

「本当ですか?」

「ただ、何処の誰かまではわからないって。
 まあ、あたし達が探すのはかまわないけど」

確かに、風の精霊ならキエヌの街中を飛びまわれる。

探しだすのも、さほど難しくはないだろう。

だが、キエヌに住む相手にどう説明すればいいのか。

腕輪を拾ったか尋ねるにしても
その相手に行きついた理由を
精霊に探してもらったと言えるはずがない。

「いえ、そこまでは」

「いいの?」

「拾った相手が見つかったとして
 その方に辿り着いた理由を説明できません。
 精霊に探してもらったなど、通じる話しではないでしょう。
 お心遣いありがとうございます」

「あなたがいいなら、いいけど。
 その気になったらいつでも声かけてね」

「はい」

くるりと回り、精霊は流れていった。

「黙りとおすなど、その方が悪いことですよね」

やはりここは、正直に伝え謝るべきだろう。

けれど、どうしても言いだす決心がつかなかった。

失くしてしまった事実が、心に重い。

「はぁ、、、」

出てくるのは溜息だけだった。






「、、、、、」

ここ暫くジャステアの様子がおかしい。

元々無駄なお喋りをする性格ではないが
何か考え込んでいると思えば、天を仰いでみたり。

大きな溜息をついたり。

「ジャステア」

「は、はい」

「ここ暫く、塞いでいますね。何かありましたか」

「、、、、いえ」

答えながら、水晶が鼓動のように震えるのを感じる。

そして闇戯も、何かがあるだろうことは疑わなかった。

けれど、問い詰めれば頑なになるだろう。

言えるものなら、一度で答えるはずだ。

闇戯はそっと、腕におさめる。

「今のあなたを創ったのは私。
 不安があるのなら、遠慮はいりませんからね」

「闇戯様」

「あの時から、私たちの運命<さだめ>は共にある」

闇戯と共に在ること。

こうして寄り添っていられる今が何よりの喜びであるから
ジャステアは本当のことが言えなかった。

「ありがとうございます。そのお言葉だけで私は」

「この命、続く限り」

「はい」

2人を護るように、優しく風が包んだ。


「今日はお休みだったのよね。何処にしようかな」

市場へ向かう道を歩きながら
アージュは並ぶ店を思い浮かべた。

いつもの店が今日は臨時休業。

同じものが買える店は何処かを考えていると

「おや」

「あ、、、、」

先に気がついたのは闇戯だった。

遅れたアージュも小さくお辞儀をして歩みを寄せた。

「こんにちは。闇戯さん」

「また会いましたね。こちらとは思わなかったけれど」

「私もです」

「何処かへ向かうところでしたか?
 それとも、向かった先から戻る途中かな」

「市場で買い物があって、これからです。闇戯さんは」

「何処へ行くというわけではないのですが
 時々こうして、町を眺めながら歩いているんですよ。
 せっかくだから、ご一緒しましょうか」

「はい」

2人並んで歩き出した。

「生活はキエヌなんですか?」

「写真屋のランス様と一緒に住んでます。
 ランス様は元々キエヌにお住まいで
 こっち側の”人”なんですけど、その、、、色々あって」

(ランス、、、、キエヌで生きながら有翼を知る者。
 確か、宝刀の使い手だったな)

その名は有翼側でも知られている。

キエヌで生まれ、キエヌで生きる翼を持たぬ人ながら
眠りについていた先代の白銀<カルサイト>を
目覚めさせた、宝刀の使い手。

有翼さえ、存在がわからなかった宝刀を
”人”が持っていたことで、憶測は様々あった。

だが、その事情に踏む込むほどの関心は無い。

「抱える事情はそれぞれですからね。
 あなた達が持っているものにまで
 踏み込むつもりはありませんよ」

「ありがとうございます」

アージュは安心したような笑顔を見せた。

逆にいえば、突っ込む輩も多いのだろう。

「闇戯さんは」

「私もこちら側です。別の町ですが」

「どんな所なんですか」

「キエヌとは正反対ですね。
 人も少なく、静かさだけが取り柄のような場所です」

「、、、、寂しくないですか」

キエヌの賑わいが常のアージュには
とても寂しい場所のように思える。

「思う時も無くはないけれど、私には合っているようですよ」

そう闇戯が返した時、風がアージュの髪を舞いあげた。

「きゃ」

アージュの髪は、闇戯の腕飾りに絡んだ。










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