重なる環


水の宮を出たアージュは、アルムのアトリエに向かった。

教えられた浮島の門を抜け道なりに進むと、重厚な石造りの建物が見えた。

「あれがアトリエね」

自分以外にもアトリエに向かう精霊を感じる。

精霊に囲まれるこの雰囲気に懐かしさを覚えながら、アージュはアトリエに入った。


「広くて大きい」

聞こえる精霊のお喋りに耳を傾けつつアトリエを歩くうち
開いたアーチ型の門の向こうに、不思議な光景が見えた。

「精霊があんな集まり方をするの?」

光の円柱が祭壇前に現れていた。

そして中心には人の姿が見える。

円柱は精霊が持つ基礎効力だった。

光の美しさは基礎効力の質の高さを表すともいえよう。

「あ、、、、」

光がゆっくりと輝きを落としていく。そして消えた。

だが座り込んでいる人は、そのまま動かなかった。

「気分でも悪いのかしら」

アージュは静かに近づいた。

「あの、気分でも悪いんですか」

アージュの呼びかけに、ゆっくりと瞳が開いた。

「他に人を呼んだほうがいいなら、探してきますけど」

「大丈夫、ありがとう。
 少しこのままでいないと、逆にしんどいのでね」

(精霊に囲まれてしんどいって、どういうことなんだろう。
 基礎効力の質は高かったけど、何のためにあんなこと)

様々疑問は浮かんだが、今目の前にいる人は体調がよくない。

ならば、水の精霊である自分が出来ることは何か。

「私、水の精霊でアージュっていいます。
 水が持つ水面のような安らぎで、いくらか楽になれば」

己が持つ基礎効力を送ろうとした時
また別の声がそれをとめた。

「待つのだ、アージュ」

「マナ様」

止めた声は命の精霊マナだった。祭壇前にその姿が浮かぶ。

「その者は、今しがた基礎効力を配分よく取り入れたところ。
 せっかくの優しさだが、無駄になってしまう」

「己に基礎効力を取り入れるって、、、、まさか」

アージュは乗せていた手を見つめる。

「気がつくか、やはりな。闇戯、よかろう」

「そうですね。説明せずにやり過ごすのは無理でしょう」

蜜色の瞳がアージュに向いた。

「あなたの思っているとおりですよ。おそらく」

「ホムンクルス、、、、」

世界創造の基礎となる4つの精霊。

その基礎効力を寸分狂いない配分で引き出し
命の精霊マナを呼ぶ。

精霊使いの手で創りだされる命をホムンクルスと呼んだ。

生命の核となるのは紅水晶。

永遠に近い命だが、水晶は時間とともに劣化をする。

生きようとするならば、基礎効力を水晶に取り込む必要があった。

「マナ様に止めてもらってよかった。
 かえって悪くさせるところでしたね」

「気づかいには礼をいいます」

取り込んだ基礎効力の安定を感じ、闇戯は大きく息をついた。

取り込むにも安定させるにも確実に時間を必要としてきている。

はるかな昔にアルムによって創りだされた己を思えば
それは、しかたのないことだ。

だが時間がかかってでも、今は命を繋ぎたい。

この手で創りだした、もう1つの命のためにも。

「落ち着きましたから大丈夫ですよ」

「帰りますか?」

「ええ」

「じゃあ一緒に出ましょう。私も戻ります」

「あなたの用件は終わったんですか?」

「特別何があるってわけじゃないんです。
 アルムのアトリエが動き出したってきいて、
 足を向けてみたくなっただけだから」

「では、一緒に出ましょう」

「はい」

闇戯は立ち上がった。

「また伺います」

「マナ様、失礼します」

「気をつけてな」












アトリエを出てた2人は、話しながら浮島を歩いた。

「精霊使いでもホムンクルスを成功させられる人って
 そう滅多にはいないんですよね」

「失敗すれば己の命取りにも成りえますからね。
 命を創ることは、それだけ重い物を背負う。
 だから、成功するだけの力量を与えられる者は
 数少ないのかもしれません」

「李凰様も言ってた。
 精霊使いはより重たい物をこの手に預かっているのに
 どうして止められなかったんだろうって」

「李凰、、、、あの負け知らずの総大将ですか?」

「え?李凰様をご存じなんですか?」

出た名前に2人は互いを見る。

「あのころを知る者なら、誰でも覚えはあるでしょう。
 そう、彼でさえ争いに疑問を持っていたか」

「闇戯さん」

けれど、何を思ったところで過去は過去。

無かったことに出来るはずもない。

「まあ、過去が変えられるわけでもないのだし
 極論を言えば命ある者にとって真実は
 今生きているということだけです。
 どんな形で命を与えられようと
 それだけは変わらないのですからね」

「はい」

暫くすると、闇戯は足を止めた。

「別の浮島から出るので、ここで」

「またお会いできたら、お話させてくださいね」

「ええ。その時は」

翼を翻し、闇戯は飛び立った。

「劣化を放置すればそれが終焉。
 大切な人がいるのね、きっと」

劣化を遅らせるためとはいえ
取り込み、安定させることは多少の負荷を伴う。

それでも命を繋ごうとするのなら
同じ時間を生きたいと望む誰かがいるのだろう。

闇戯の心に住むのはどんな人なのか。

そんなことを思いながら、アージュも浮島を飛び立った。


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