



四重奏 〜 カルテット 〜
新しいオーナーの元、ローゼンタは順調な稼動をみせていた。
カーネリアのいい意味での厳しさは職人たちの活気を引き出し
カーネリアに対しての信頼も厚いと、瑞樹の耳にも届いている。
瑞樹は改めて、カーネリアの手腕に感心するだけだった。
「ファルア」
「はい」
「この家に来る前にも、いくつか務めてきたんだろう」
「務めさせて頂きました」
「それなりの名門の跡継ぎっていうのは
カーネリアみたいに厳格に育つのが普通なのか?」
「、、、、、」
「私がどうこうじゃなく、お前が今まで見てきた中での話だ」
言葉を選ぶより率直な答えを求めていると、ファルアは判断した。
「程度の差はあれ、ご幼少の昔より上に立つ者としての教育を
受けられているのは確かです。
カーネリア様は、私が知る中でも
生粋の貴族としての資質をお持ちだと拝します。
裏を返せば、それだけ厳しく教えられたということでしょう」
「次期当主か、、、、。私もそうだよな。カーネリアとは随分違うが」
「瑞樹様、、、、」
父と和解した今、彩華月の次期当主という立場は公のもの。
放蕩息子だと見下していた周囲は、態度を180度変えた。
もっとも、それが当たり前といえるのがこの世界だ。
瑞樹とて承知の上だし、気にはしない。
家に寄り付かず、酒場を渡り歩いていたのは事実なのだから。
「この私がな、、、、」
ふと落ちた言葉にファルアは静かに返した。
「旦那様には旦那様のお考えがあって
瑞樹様をお育てになったのでしょう。
クロシェ家当主としてのお立場と
彩華月家当主のお立場はまた別のもの。
少なくとも、旦那様は瑞樹様を信頼なさっております」
ファルアの誠実な心遣いを嬉しく思う。
事実、今の瑞樹は使用人たちからの信頼もあるし
昔のことは笑い話にもできるようになった。
ここで、瑞樹はファルアがどこまで聞いているのかを
知らないことに気がついた。
「弟の話は聞いてるんだろう?どこまで知ってる」
「お名前と、すでにキエヌを離れていらっしゃることくらいです。
詳しいことは、伺っておりません」
「私の昔の話は?」
「ご幼少の頃のこともさほどは」
「そうか、、、、」
「キエヌを離れられてからは、お会いになっているのですか?」
「いや、、、、」
会おうとしても、正確な居場所を瑞樹は知らない。
場所を知るのは、橋渡しとなる紫水のみ。
その紫水とて、こちらからは会えないのだから。
「何も伝わってこないってことは、無事の知らせだろう。
そう信じるよ。
このまま二度と会えないとしても、大切な弟だ」
絡瑛のことを考える時、瑞樹の手は知らずに胸に乗る。
そっと、抱きしめるように。
「お前に兄弟は?」
「、、、、兄がおります」
ファルアは忍ばせているペンダントを思う。
「どうしてるんだ。たまには顔見せてやれよ」
「、、、、、」
ファルアは黙ったまま動かなかった。
主に返答しないとなれば、よほどの事情だろう。
本来なら許されることではない。
「、、、、悪いことを訊いたようだな。すまない」
「いえ、ご無礼申し訳ありません」
「もし助けになることがあるなら」
「ありがとうございます。ですが、受けられる身ではございません」
「、、、、お前も、随分厳しく育てられたんだな」
「瑞樹様、、、、」
カーネリアとファルア。
瑞樹は、この2人を似ていると思う。
勿論立場は違うが
それぞれの場所で厳しい教育を受けたのだろう。
厳格すぎるほど、立場に忠実なのだ。
「カーネリアにも同じことを言ったが
一人で全てやろうとするなよ」
使用人を見下す主人も珍しくない中で
瑞樹も瑞樹の父もあたたかかった。
応える方法は、誠実に彩華月に仕えるのみ。
「勿体無くありますが、そのお言葉留めさせていただきます」
瑞樹は新しいグラスをファルアに差し出した。
「一口だけでいい」
「、、、、、、はい」
酒を共にするなどあるべきではないが
瑞樹ならとファルアは思える。
そして、これは誓い。
「瑞樹様、並びに彩華月の皆様のため尽くすことお誓い申し上げます」
「ああ、よろしく。私もお前たちがあってこそだと忘れない」
主従であるからこその、信頼の形だった。
そんな二人を、中庭で眠る思いが優しく包んだ。