



四重奏 〜 カルテット 〜
工房ローゼンタの昼休み。親方からの一斉召集がかかった。
「やっぱり変わるのか」
「どんな人なんだろうな」
職人たちがざわめく中、親方が口を開いた。
「休憩中に集まってもらったのは他でもない。工房のオーナーが変わるからだ」
顔を見合わせる者、親方を見つめる者。
反応は様々だった。無論、フィエラと凪もいる。
「新しいオーナーを紹介しよう。どうぞ」
入ってきたのは2人。
「え、、、、瑞樹さん?」
「隣は」
目の前にいるのは瑞樹とカーネリアだった。
「カーネリア・クロシェ殿。彩華月・瑞樹殿」
クロシェと彩華月。
キエヌきっての名門の名に、ざわめきは一層大きくなる。
「一言お願いします」
「私の方は知っている人もいるだろうけど
改めて、工房のオーナーとして関わることになった。
これからも、ローゼンタの品を楽しみにしている」
「クロシェが正式にローゼンタの後見になる。
更に研鑽と鍛錬をよろしくお願いするところだ。
職人として技術を上げるための支援は惜しまない。ただし」
カーネリアは最後に釘を刺した。
「職人としての誇りを、おごりや慢心に勘違いするようなら
即刻工房を辞めてもらうからそのつもりでいるように」
「お2人とも、今のローゼンタを守りたいと言ってくださっている。
皆も、ローゼンタの職人として恥ずかしくないよう精進してくれ」
「こんなことに、、、、、」
呟いたフィエラとカーネリアの視線が合った。
カーネリアは小さく頷いた。
「瑞樹さんが工房のオーナーか、、、、。それに、クロシェ家が後見に入るとはな」
「まさかこんなことになるなんて、驚きました」
「偶然が招いた結果だね。
通りで会ってなければ、僕もここまでのことをしたかは、わからない」
「こうなると、偶然は必然だったのかもしれないな」
夜。
瑞樹の家で
瑞樹、カーネリア、フィエラ、凪の4人が顔を合わせていた。
戸惑いと緊張はあるものの
使用人を入れていないことで、幾分楽ではあった。
「瑞樹さんとカーネリアさんがオーナーなら安心できます。
頑張らなきゃね、凪」
「ん、、、ああ」
「何か気になるのか?」
どうもはっきりしない凪に瑞樹が向いた。
「言いたいことがあるなら聞くよ」
自分に対しての何かだろうと、カーネリアは先を促す。
「失礼だとは思いますが、一つだけ答えてください」
「どうぞ」
「金持ちの道楽じゃありませんよね」
「凪、何言い出すの!?すみません悪気は」
慌てたのはフィエラだった。カーネリアは片手で制す。
「それくらいはっきりしてるほうが僕には合ってる」
「フィエラ」
瑞樹も黙っているようにと視線を投げた。
「、、、、はい」
「これはクロシェにとって投資だ。
慈善事業をするつもりはない。
今まで以上にいい品を作ってもらわなきゃ困る。
当然利益も出してもらう。
そのための人選をさせてもらうつもりだし
資金の提供も惜しむつもりはない。
そして、利益を生み出すのは
君たち職人の技術だと思っているよ」
カーネリアは一息入れた。
「まあ、経営どうこう言うよりもこの方が早いだろう。
シュトラウゼ殿の方針を変えるつもりはない。
今のローゼンタを今の形で更に発展させる。
規模も、技術も。これで答えになるかな」
「、、、、、ありがとございます」
硬かった凪の表情がようやく和らいだ。
「この分じゃ、私の出番は無さそうだな」
「何いってるの。出資比率は半々なんだから
瑞樹さんだって利権の行使はしなきゃ」
「わかってるよ。だがお前のほうがずっと頼りになりそうだ」
受けたカーネリアはふいと視線を外した。
「僕だって、、、、、誰かに頼りたいさ。出来るなら」
「カーネリア、、、、、」
この一件を捌いてきたカーネリアを見ているとつい忘れてしまう。
自分よりも年下の、まだ子供だということを。
「悪かった。お前だけに押し付けるつもりはない。
クロシェと家と、いや2人で一緒にやっていこう。
一人じゃないよ、カーネリア」
「瑞樹さん」
「そうですよ。あの工房は誰か一人の力で動くものじゃない。
僕たちとオーナーのお2人と、皆がいて成り立つんです。
それこそ失礼だけれど、お2人を仲間だと思います」
「私たちはいい品を作ることで援助に応えます。
あの工房をよりよくするために、よろしくお願いします」
フィエラと凪の、真剣であたたかい眼差しがカーネリアに向いた。
尊敬と信頼。その想いが、カーネリアを包む。
そしてカーネリアは、初めてともいえる感情を覚えていた。
「ああ。よろしく」
胸に抱くのは、己を突き動かしてくれるような心地よい情熱。
「キエヌ一の、、、、いや、世界一の工房にしてみせる。
皆と一緒なら、きっと出来るね」
家具工房ローゼンタ。
その名が一層の飛躍を遂げるまで、そう時間はかからないだろう。
願いではなく、確信に近い思いを、それぞれが感じ取っていた。