


四重奏 〜 カルテット 〜
「ご足労、ありがとうございます」
「彩華月殿とクロシェ殿からの御用向きとあらば、こちらから伺うのが礼儀というものです」
彩華月とクロシェの連名でシュトラウゼに来訪予定を告げた直後、シュトラウゼから出向くとの封書が届いた。
実際、格からすれば彩華月とクロシェがはるかに上である。
シュトラウゼの判断は、当然と言えば当然のことだった。
「遅くなりました」
シュトラウゼから僅かに遅れて、カーネリアが入った。
「お待たせして申し訳ありません」
「いえ、私も今お伺いしたところです」
「では、始めさせていただきますね」
カーネリアは会釈をすると話を進めた。
「早速ですが、先日伺ったローゼンタの件
バークレー殿には返答なさいましたか」
「いいえ。待ってもらっています。ですが、催促がきまして」
「正直にお聞かせください。譲りたくないと、お考えですね」
暫くの間をおいて、シュトラウゼは頷いた。
「バークレー殿は職人の気持ちなど二の次でしょう。
けれど、あの工房の品は職人の技術に裏打ちされてのもの。
バークレー殿に渡れば、ローゼンタの名を持ちながら
ローゼンタではなくなってしまう気がするのです」
「立ち入ったことをお聞きしますが
財政が厳しいというのは本当のことですか?」
瑞樹の問いに、やはり頷いた。
「お恥ずかしい限りですが、本当です。
あの、彩華月殿はローゼンタに対してお考えがあるのですか」
「通りに画廊を構えています。そこで工房の品を扱っているんですよ。
職人達とも話しますし、私の考えはシュトラウゼ殿と同じです」
「そうでしたか」
「私も今のままのローゼンタであってほしい。
お力になれるようでしたら出来ることはいたします。
工房を手放すことは、思いとどまっていただけませんか」
シュトラウゼは視線を手元に移し考えた。
彩華月からの援助をもらえれば今はしのげるかもしれない。
だが、維持が出来るかは別問題だ。
この先に工房を維持できるだけの資金繰りが可能なのか。
「瑞樹さん、今じゃなくてもいいでしょう。
こちらにだって事情はあるんだから」
「クロシェ殿」
「僕も工房の職人を多少知っているので
手放さないで頂けるなら嬉しく思います。
何かしらのお考えが決まったら知らせてください」
「シュトラウゼ殿がオーナーいてくだされば
職人達もよりよい品をつくることができるでしょう。
私もそれを望みます」
工房に対する同じ思いを感じ取ったシュトラウゼは、心を決めた。
「彩華月殿、ローゼンタの利権を買っていただけませんか」
「私に、、、ですか?」
「今はしのげたとしても、正直維持していくのは難しい。
ならばむしろ、同じように大切にしてくださる彩華月殿に
工房をお任せしたいと思うのです」
「、、、、やっぱり、そうなるかな」
カーネリアが小さく呟いた。
「瑞樹さん、悪い話じゃないと思うよ」
確かに手っ取り早く確実ではある。
そうなると、バークレーを納得させるにはどれだけの額が必要か。
「失礼ですが、バークレー殿はいくらで買取を」
「それはこちらに」
資料を取り出そうとしたシュトラウゼに
カーネリアはさらりと言った。
「額だけの問題なら、僕らのほうが上でしょう」
「カーネリア?」
「彩華月とクロシェ、共同で買い取れば2対1だ」
「、、、、お前」
「クロシェ殿」
「瑞樹さん自身の気持ちとしては
この話乗ってもいいと思ってる?」
「ああ、これも方法だとは思う」
「じゃあ、叔父上に掛け合ってもらえないかな。
僕も父さんに確認しておくから」
「確認、、、そのつもりで話を進めているのか?」
「簡単にね。ローゼンタの利権買取の話がきたら進めたいって。
叔父上が承諾してくれたら詳細を詰めて
両家共同買取で、正式決定を出してもらおう」
「何時の間にそんなこと」
「シュトラウゼ殿、まだ確約は出来ませんが条件を整えてこちらから提示します。
それをご検討ください。バークレー殿との交渉は当方で。よろしいですか」
「ええ、勿論。こちらからお願いしたいくらいです。どうか、よろしくお願い致します」
頷くカーネリアの横顔は、愁馬と話している時のカーネリアとは別人に見える。
シビアな商談を進める姿に、瑞樹は驚くだけだった。