四重奏 〜 カルテット 〜


工房ローゼンタの昼休み。

「凪は元帥閣下に会ったことある?」

昼食を終えた凪とフィエラは、工房内の一角で一息ついていた。

不意にフィエラから出た問いに、凪は少しの間をおいて答える。

「、、、、、あるわけないだろう」

「普通そうだよね。僕たちのレベルじゃ。
 そしたら瑞樹さんの実家って知ってる?」

「家の前までなら行ったことはある。入ってはないけどな。
 大きな屋敷だったから、それなりの名門だろう」

「凪は知ってたんだ。
 画廊の店主としてしか知らなかったから驚いたよ。
 元帥閣下とあんなふうに話せるくらいの家柄だったなんて。
 爵位持ってるんだろうな。全然そんな感じしなかったけど。
 あ、もちろんいい意味でね」

「フィエラ、何の話なんだ?
 人に振っておいて自分だけ納得するな」

「と、ごめん。実は」

通りでカーネリアに助けられた一件から始まり
夜会に招待されたこと、その席で瑞樹と会ったこと
元帥ネフライトとの話などをかいつまんで話した。

「貴族階級の夜会ね。招待されてもパスだな」

「ほんとに顔出して挨拶だけで帰ったから。
 よくわからないけど、あんなものなのかな」

「たしか瑞樹さん長男だろ?跡取り息子で若く独身とくれば
 回りが黙っちゃいないさ。見合いには困らないだろうな。
 ま、それはそれとして
 うちの品が元帥府に入ってるのは知らなかった」

「褒めてくださってたよ。大切にしてもらえると思う。
 職人の手で作るから、まったく同じものは2つとない。
 それがローゼンタの誇りだし、鍛錬を怠らないことが
 ここの職人だっていえる、最低条件だからね。頑張らなきゃ」

「ああ。職人の腕がそのままローゼンタの品質だからな」

2人は気持ちも新たに決意した。と

「失礼する。誰か」

遠くはあったが声がした。

別の職人が対応に出たその相手を見たフィエラは
思わず息を呑んだ。

「あの人、、、、」

「知ってるのか?」

「知ってるも何も、今話した人だよ。馬車の持ち主」

「何、、、」

相手は他ならぬバークレーだった。

フィエラには気がつかない様子で別の場所へ案内されていった。

「ここに何の用があるんだ」

「わからないけど、、、、」

フィエラたちの知らないところで工房が揺れ始めていた。





「ただいま」

「お帰りなさい」

仕事を終え家に戻った凪を変わらない声が迎える。

「遅かったわね。食事は?」

「あ、、悪い。外でフィエラたちと済ませてきたんだ」

「じゃあ、明日の朝に回しましょう」

気にする様子もなく、姉の舞夢はテーブルを片付け始めた。

「お茶、姉さんのもいれておくよ」

「ありがとう」

凪と舞夢はこのキエヌで2人暮らし。

互いに助け合いながら日々を送っている。

ひとしきり片づけを終えた舞夢はテーブルについた。

そして少しばかり神妙になり、こう切り出した。

「あたし、昼間働きにでようと思うの」

「姉さん?」

凪は初耳だった。

「急にどうしたんだ。、、、家、苦しいのか?」

「すぐに逼迫とか、そうじゃないわ。
 物価が上がってることは確かだけどね。
 昼間は手が空くから、その時間を有効活用するだけよ」

「それ、無理な言い訳じゃないよな」

「それは大丈夫」

「なら、いいけど」

家事の手伝いはするが、家計に関しては任せ切りだった。

もう少し気にするべきかと、反省の念が浮かぶ。

「困ってるなら言ってくれよ」

「わかってる。その時はちゃんと相談するから」

舞夢は新しくお茶を入れなおす。

「じゃ、先に休むわね。凪もあまり遅くならないようにしなさい」

「ああ」

「お休み」

お茶を持って自室へと引き上げた。

「働くね」

家事全般はそつなくこなすが、外に出て働くとなれば初心者だ。

何が出来るのかと考えてみるが

「、、、、だめだ。浮かばない」

どうしても、外で働く舞夢の姿は想像できなかった。


更に数日後。

「親方、変だよね」

「何かあったのは間違いないな」

仕事の帰り、凪とフィエラは酒場で軽く飲んでいた。

2人の話題は、ここ数日の親方のこと。

「バークレーだったよな。あの男が来てからだろう」

「僕もそう思う。何の用だったんだろう」

バークレーが工房に姿を見せてから
親方は急に口数が少なくなった。

他の職人も様子が違うことに気づいているが
詳しい話は、誰も聞かされていないようだ。

「僕たちのほうから訊いていいことだと思う?」

「、、、、、どうなんだろうな」

親方から話が出るのを待つか、こちらから訊くか。

その判断は難しい。

だが、余り長引けば工房全体が落ち着かなくなる。

そして職人の手作業で作る品は、少なからず影響を受けるだろう。

と、フィエラが思い立ったようにこう提案した。

「瑞樹さんに訊いてみようか」

「瑞樹さん?」

「そう。瑞樹さんなら、商談で親方とはなすでしょう?
 僕たちには伝わらないことも聞いてるかもしれない」

「そうだな。その可能性は高いな。店に寄ってみるか」 

「何かわかるといいね」

「ああ」

何かを聞いているとしたら、考えられるのは瑞樹。

2人は賭けてみることにした。


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