四重奏 〜 カルテット 〜


「お疲れ様でした」

家に戻り、いつもの服に着替えようやく一息ついた。

「まさか、元帥閣下と話すなんて思ってなかった」

「先ほどのお話ですと、フィエラの手がけた品をお使いかもしれませんね」

「元帥府に納める品じゃ、僕なんか触らせてもらえないよ。
 僕よりもずっと長く工房に勤めてる先輩がいるんだもの。
 でも、あんなに若い人だとは思わなかったな」

「作り置きになりますが、食事にしますか?」

「そうだね。ほんとに顔出しただけだし」

「整えますから、少し待ってくださいね」

紅響は火を入れなおし配膳を始めた。

「出来るまで休んでいてください」

「、、、、、」

一緒に暮らし始めてから、家事全般は紅響が務めていた。

命を救われ、居を借りている礼だからと。

全て任せるのは気が引けるから手伝うとフィエラが言っても
”気になさらずに”と返ってくるだけだった。

優しさは、そのつもりがなくとも使い方を間違えれば武器になる。

フィエラにとって、それが少しずつ苛立ちに変わっていた。

それを自覚してなおのこと、ささくれのように抜けなくなってしまう。

このまま続いたら紅響に何を言ってしまうかわからない。

そうなる前にと、フィエラは決めた。

「紅響、少しいい」

「はい」

呼ばれた紅響は素直に応じた。

「何か必要なものがあればすぐに」

「そうじゃない。家のこと僕にもやらせて」

「それは、以前言ったように」

「わからない?それが僕にとっては苦しいって」

「フィエラ、、、」

思いもしなかった。自分がフィエラを苦しめているなど。

「申し訳ありません。よりによって、わたくしがそのようなこと。
 至らないところは何をしてでも」

「紅響、、、、」

フィエラとてわかっている。純粋なのだと。

ただ自分の為に何かをしたいだけだと。

わかっているから、うやむやにはしたくない。

「紅響、顔上げて。僕の話聞いて」

「、、、はい」

「確かに僕は紅響を助けた。生活できる場所も提供してる。
 それを恩に感じるのは間違っていないし
 紅響が何かをしたいって思ってくれるのは嬉しい。本当だよ」

「わたくしは何をしてさしあげればいいのですか?
 いないほうがフィエラの為なら、どうかそのように」

フィエラは首を横に振った。

「僕は紅響のこと家族だって思いたい」

「家族、、、」

「家のこと、紅響が全部やってくれてる。
 僕は外に出てて紅響は家にいるから、紅響に比重か傾くのはしかたない。
 だけど、何だか紅響が僕に仕えてるみたいなんだ。
 僕はそれを望まない。そうあってほしくない」

「、、、、、」

「僕にもやらせて。2人で一緒にやっていこう。それが、家族だと思うから」

何かをしたいと思うあまり、フィエラが何を望んでいるのか考えなかった。

紅響はようやくそれに気がついた。

「わたくしは、フィエラの為といいながら
 己の我侭を押し付けていただけなのですね。
 フィエラの気持ちなど何も気がつかずに」

「それだけ紅響が純粋だって、わかってる」

「フィエラ、、、、」

同じ目線で膝を折り、フィエラは紅響の見えぬ目にそっと触れた。

「こんな傷が残るような酷い目にあって、一人でずっと逃げてきて。
 それでも恨み言一つ言わないで、思いやりを忘れない。
 綺麗で真っ直ぐな心を持ってるんだね」

「褒めすぎですよ。え、、、」

フィエラの背に翼が見えた。美しい純白の翼。

だがそれは、ほんの一瞬で消えた。

「、、、気のせい?」

「紅響?」

「い、、いえ、何でも」

「さ、食事にしよう。お腹すいちゃった」

「はい、、、」

立ち上がり、キッチンに向かうフィエラの背には何もない。

気のせいだとしても、何故あんな錯覚を見たのだろう。

「、、、疲れているんですね、きっと」

強引に納得し、紅響も隣に立った。

2人で並んで立つ台所。それが嬉しくて、フィエラには自然と笑みが浮かんでいた。


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