従者の息抜き


「何があったのかしら」

鍛錬場に集まっている兵の姿に足を止めたのは
黒の統括直属のイレーネ。

外側からどうにか中を見ようとしている一人に声をかける。

「どうしたの」

「邪魔しないでくれ。今いいところ、て、、、し、失礼しました!」

イレーネの姿を見ると、慌てて頭を下げた。

「随分人が集まっているようだけど」

「ラティーシャ様とアウステリア様が手合せをなさっているんです」

「あの2人が?」

「はい。どちらも引かない、素晴らしいもので」

アウステリアは御前試合の連続優勝者だと聞く。

そのアウステリアと互角なら、ラティーシャの腕も
思っている以上ということか。

「どうぞ、前へ」

「2人に気づかれない位置でいいわ。
 気を逸らしてしまっては、かえって危険だし」

イレーネは囲む兵の間に立った。

2人の動きを見てすぐに
兵の言葉がお世辞でないことがわかる。

自分も鍛錬は怠っていないつもりだが、負けるかもしれない。

2人が距離を取って静止し、次の瞬間、正面からぶつかる。

互いの剣が相手のそれを弾き飛ばし
互角という結果で終わった。

 





「ふう、、いい手合せだったな」

握手と同時に、歓声が沸く。

ここで初めて、イレーネが進み出た。

「2人共、見事なものね」

「イレーネ」

「これは、、、気づかなかったな」

「いい手合せを見せてもらったわよ」

「ルトヴァーユ様に用向きがあるのか?」

「シェスタ様からの預かりもの。
 でも、緊急とは仰っていないから心配はないと思うけど」

「そうか。ならいいが」

とはいえ、ここで3人揃うとは思いもしなかった。

「今度は私と一戦願おうかしら」

「イレーネの場合は精霊の基礎効力を軸にした精霊魔法だ。
 私たちの剣術とは質が違うよ」

アウステリアがやんわりと制止する。

「そうかもしれないけど
 最近相手になってくれる人が少ないのよね」

アウステリアと同じ言葉に
ラティーシャは思わず笑いをかみ殺していた。

質は違えど、術を使う腕は確かなものだ。

「いずれ、機会が出来ればな」

終了の合図代わりに、2人は剣を元の場所に収めた。

「急ぎでなければ、お茶の一杯でもどうだ」

「あら、ラティーシャから誘いだなんて珍しい」

「どういう意味だ」

「お茶を飲んでゆっくりするより
 剣の手入れをしてる印象だもの」

「たまった物を片付けたいのもあるんだ。
 付き合わせて悪いとは思うが」

「どういうことだ?」

「部屋で説明するよ」

先に歩き出したラティーシャに顔を見合わせ
アウステリアとイレーネも続いた。
 

その後、ラティーシャの部屋でティータイムとなった。

「足、大丈夫か」

「ああ、何とか」

ラティーシャより一回り大きいアウステリアは
標準家具だと、体の持っていきように困る。

どうにか、テーブルの脚を避けて腰を下ろした。

「そういうことね」

キャビネットを見たイレーネが呟いた。

中には、茶葉とお茶菓子が並んでいたのだ。

「ラティーシャに、こういう趣味があるなんて知らなかったわ」

「私じゃない。ルトヴァーユ様の手土産だ」

「手土産?」

「キエヌに行かれた折りに、何かしら頂いている」

「そんなに頻繁なの?」

イレーネには意外だった。

向こう側に散策に出るというイメージは、あまりない。

「まあ、増えたことは確かだな。
 緊急時にいらっしゃらないとか、その類は無いからいいが」

ラティーシャの視線はアウステリアに向いた。

「あまり言いたくはないが
 アウラクア様の影響じゃないかと思ってる」

アウステリアからは小さなため息が落ちた。

「、、、、否定できないな」

向こうとの行き来が一番多いのはアウラクア。

アウラクアが持ち帰ったものがルトヴァーユにわたり
そこから興味を持ったとしても、不思議ではない。

「アウラクア様の行動力は責任を伴ったもの。
 それをどうこう言うつもりはないが」

「正直、疲れることもある、かしら」

「、、、、、」

「アウラクア様とシェスタ様って、印象が正反対よね。
 ルトヴァーユ様ともまた違う。
 店先で、あれを手に取るルトヴァーユ様か、、、」

「向こうでの散策が、息抜きになっているのなら
 それはそれで、いい事だろう」

「そう考えてみると、気苦労が多そうなのは
 アウステリアみたいね」

「突っ込むな」

(あら、、、反論しないってことは)

「(図星か)それぞれに違った意味でいろいろあるさ。
 たまには、統括直属の私達だけで息抜きもいいじゃないか」

「それ賛成」

「たまにはな」

仕える相手が三者三様であるのと同じく
従者の側もまた然り。

それぞれが思うところを話題にしつつ
お茶の時間が過ぎるのだった。

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