従者の息抜き


並行して同時に存在する2つの世界。

一方には背に翼を宿す命が存在し、もう一方には翼を持たぬ命が存在する。

それぞれに息づく地で、日々の営みは続いていた。

有翼の頂点に立つ、白銀の統括ルトヴァーユ。

そのルトヴァーユが、白の翼を持つラティーシャの仕える相手。

日々の定期報告書を持って、主の前に立った。

「本日の報告書です」

受け取ったルトヴァーユは丁寧に目を通す。

「とり急ぎの案件はなさそうですね」

「はい。引き続き、入ってくる報告に注意を払い対応致します。
 しかし、、、、」

「何か気になることでも?」

「いえ、何もなさすぎるというのも何とも」

「ラティーシャ」

一言に込められた想いに、ラティーシャも佇まいを直した。

平穏な日常は
この世界の頂点に立つルトヴァーユの最たる願い。

そのルトヴァーユの前で
騒ぎを待つような言葉など言語道断だ。

勿論、そんなつもりはないけれど。

「失礼いたしました。
 平穏であればこそ、日々気を引き締めてまいります」

「支えてくれる皆がいるから
 私もこの立場を預かることが出来る。頼りにしていますよ」

「はい。これからも精進いたします」

更なる精進を、ラティーシャは心に誓った。

 

それから数日後。

ルトヴァーユの城に来訪者があった。

姿を見た衛兵が素早く敬礼をする。

「久しぶりだな、アウステリア」

「ああ」

来訪者は、白の統括直属であるアウステリアだった。

立場でいえばラティーシャと同等。

主であるアウラクアからの信頼も厚い。

「お前が直に出向くとなると、それなりか?」

緊急の用件かと、ラティーシャは気を引き締める。

「いや、その心配はない」

「ならいいが」

「ん〜っ」

アウステリアは大きく背伸びをした。

「どうした」

「最近書類作業のほうが多くてな。
 そのせいか、あちこちがこるんだ。
 手合せを頼もうにも、どういうわけだか
 やんわり断られることのほが多くて」

(御前試合の連続優勝者に、挑むやつはそういないだろう)

アウステリアは、城の御前試合の連続優勝者。

いくら鍛錬とはいえ
互角にやりあえる相手が少ないのは当然だろう。

だが、ラティーシャにしてみれば、丁度いいところに来てくれた。

「急ぎでないなら、私とどうだ」

「お前と?」

「私も体を動かしたいと思っていたところだ。
 御前試合の連続優勝者には相手不足かもしれないが
 並よりは上のつもりだぞ」

「そういえば、お前との手合せはなかったな。
 では、一戦頼む」

「いい息抜きになりそうだ。ああ、真剣にはやるからな」

「無論。望むところだ」

2人はそのまま、鍛錬場に向かった。



 

「こ、これは。アウステリア様」

2人が鍛錬場に入ると、その場にいた者は一斉に敬礼を返した。

統括直属の部下が揃えば無理もない。

「こっちには構わなくていい。息抜きだ」

「息抜き、、、でございますか?」

「ああ」

「ラティーシャ殿と手合せだ。鍛錬最中に場所を借りるが」

「い、いえ。どうぞ、お使いください」

ラティーシャは、自分の物より一回り大きい剣を渡した。

「お前の身の丈なら、これくらいだろう」

「ふ、成程。余裕だな」

「礼儀さ」

嫌味ではなく、ラティーシャにとってはこれが対等。

向き合った2人を見る兵たちが囁きあった。

「息抜きで剣の手合せとは」

「我々とは別格だな」

手にあるのは真剣だ。周りのほうが緊張してくる。

「では」

「いざ」

正面からぶつかる金属音が響いた。

手抜きの無い真っ向からの手合せに
遠巻きに見る面々から言葉が消えていく。

「、、、すごい、、」

「これ、、、終わるのか?」

再び高い音が鳴った。

「さすがだな。連続優勝者の腕は、肩書以上か」

「お前こそ。相手に不足は無い。はあっ!」

「まだだ!」

 
 



   BACK   NEXT