Crossing Road


数日後。

「どうしたの。ずいぶん静かだね」

絽帆は一日中黙り通しだった。

おしゃべり好きではないが
隣でダンマリは気分のいいものではない。

「気に入らないことでもあるの?僕?」

絽帆は1つため息を落とした。

「新聞くらい読んどけ」

「まさか、、、、例の」

「死なせたぞ、今度は」

虎丞は大きく息をのんだ。

「同じように首筋に牙の跡があった。
 発見された時には亡くなっていたそうだ」

「、、、、、」

「人を憎んでいたお前なら、わかるか?」

「そんな言い方しないで!僕は、、、、」

確かに人を憎んだ。手に掛けた。

憎しみや怒りの感情に流されていたその時は
気がつかなかったが、今ならわかることがある。

それで気が晴れるわけではない。

むしろ自分に苛立ち苦しいのだと。

その場しのぎは自分を追い詰めるだけだと。

だから同じ妖しなら止めたい。わかるから。

だが、絽帆を見ながらこの言葉を口にすることは
できなかった。

「妖しなら、、、、止めて」

「、、、、同居人をふやすつもりはない。
 それでも止めろっていうなら、結末はわかってるんだな」

「説得できるならそうしたいけど、無理なら」

「討ち取る」

「、、、、それでいい」

「本当に、それでいいんだな」

虎丞は言葉なく頷いた。

「覚えておこう。
 だが、何処の誰かわからない以上こっちからは捜せないぞ」

「わかってる。絽帆がでくわしたらでいい」

「少し歩いてみるか」

陽は落ちており、星は雲に隠れている。

こういう事件は宵闇に紛れてと相場が決まっているだろう。

「虎丞はどうする」

「、、、、、」

もしも目の前でそれが起こったら、自分は動けるだろうか。

どちらかに手を差し出すとしたら。それともいっそ、、、、。

「、、、一人にして」

絽帆が倒れれば自分も同じ。

執着はないつもりだが、絽帆を手に掛けたくもなかった。

無責任かもしれないが、結末は絽帆に任せたい。

絽帆は半分残っていたグラスを空にした。

「行ってくる」

「あ、、と、その」

椅子から立った虎丞は何かを言おうとするが
何を言ったらいいのかわからない。

「いいさ。心の整理なんてつかないだろう」

「、、、、無理しないで」

「忘れなければな」

背中を向けた絽帆が部屋を出た。

「僕は、、、、」

当たり前になりかけていた絽帆との日常。

それが根本から揺らぐ。息が苦しい。

ボトルを手にした虎丞は、それを押し流すようにあおった。




 








「やれやれ、、、、面倒なことに」

虎丞の頼みは、言い換えれば同じ妖しを殺してくれということ。

「憎むしかないのか?」

里ごとつぶされたのだ。

憎しみしか残らなかったとしても、誰が責められるだろう。

虎丞も眠らせたほうが楽なのかもしれない。

だが、最後の最後に覚えた感情が
憎しみだけではあまりにもやりきれなくて。

だから虎丞を生かし、ああ言った。

己の命が他者の手の内にあると思えば
憎しみや怒りに流されるだけにはならないだろうから。

「そろそろ解放時か」

虎丞が落ち着いたら本当のことを話すつもりではいる。

その時が近づいているのかもしれない。

それからしばらく歩いていると

「今のは、、、」

脇道から閃光が走った。

そして、何かが落ちたような重たい音。

一瞬だったが気のせいではない。絽帆は駈け出した。

 


「白竜?」

道の端に座りこんでいるのは白竜だった。

「今まで女しか襲わなかったのに。それとも外れたか」

どちらにしろ、置いて帰れるわけもない。

絽帆は近づいた。

「白竜、聞こえてるか」

「、、、、んっ、、、」

小さくうめいて瞳を開けると、ふらりと立ち上がった。

「、、、絽帆さん、、、」

「どこか怪我でも、な、、っ、、」

「く、、、」

2人の間でバチリと弾けた。

静電気に当たったようにしびれる。

「今の、、、、」

「知らない、、、わからないんだ!何がどうなって、、、」

「まさか」

再び手を伸ばそうとした絽帆に、白竜は叫んだ。

「こないでくれ!誰も、、、来るな、、、」

逃げるように駈け出した白竜に、絽帆はこの名前を出した。

「蛍雪を置いて逃げるのか!」

「蛍雪、、、、どう、、すれば」

(何かしらの力があることは確かだろうな。弾き返してきた)

白竜はただ混乱していた。力を制御できていないのだろう。

しかしだとしたら
今まで人の中で生きてこられたのが不思議ではあるが。

「とにかく落ち着いて。
 俺は、白竜の話を理解できると思うよ」

絽帆は再び手を取った。

「つ、、、、、」

小さく唱え始めた。

「何を、、、、う、、あ、、」

白竜の内から外に向かっている力を押し戻す。

強引ではあるが、制御ができないのだからしかたない。

「、、、、静まれ」

ゆっくと痺れがひいた。

「大丈夫か?」

「あなたは、、、、」

「お互い聞きたいことはいろいろありそうだ。
 道で話し込むのは勘弁してほしいが」

(まさか、、、絽帆さんも)

自分が知っている”人”にはない力。

ならば、白竜にも聞きたいことは山ほどある。

「、、、、私の家に」

思いがけず手にした過去の断片。白竜は絽帆を連れて家に戻った。


裏手から入り絽帆を家に上げる。

部屋の扉にノックを3回。

白竜は静かに扉を開けた。

「戻ったよ、蛍雪」

「お帰りなさい」

蛍雪は音がした方向を探すように向いた。

「蛍雪、絽帆さんも一緒なんだ」

「絽帆さん?こんばんは」

「夜に悪いがお邪魔するよ」

「何かあったの?兄さん」

「その、、、何から話せばいいか」

まだ落ち着いてはいないだろう。

誘導は自分からの方がいいかもしれない。

「とりあえず、こっちの質問に答えてくれ。
 話したいことがあれば、途中で切ってもいい」

「わかりました」

「ただその前に一つだけ。白竜が聞きたいことは
 蛍雪の疑問でもあると思っていいんだな?
 そのつもりで話させてもらうよ」

絽帆は妖しを知っている。

この時点で白竜は確信していた。

「はい。私も蛍雪もキエヌでいうところの”人”ではありません」

「兄さん!?」

「そうか」

「、、、どういうことですか」

白竜はそっと蛍雪と手を重ねた。

「絽帆さんに任せてくれ」

「、、、、うん」

(虎丞、待たせて悪いが、長い夜になりそうだ)

散った妖しと人。

それぞれ歩いてきた道が、交差地点にたどり着こうとしていた。
 


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