回顧録
迦螺霧の昔話です。テキストのみで写真はありません。
(迦螺霧と双子については、物語の <宵闇草子・Crossing Road・妙薬> も参考にしてくだい)
数日後。迦螺霧は寝台から出ることもなく、食事も受け付けなくなっていた。それでも、不思議と心は穏やかだった。
心残りなのは、辛い運命を背負わせてしまった息子たち。
(どう生きていくのだろう、、、、、)
扉が開き紫水が入った。
「今日も穏やかに晴れていますよ」
「そのようですね。本当に、お世話になりました」
「いいえ」
「私を助けたことで、ご迷惑をかけていませんか」
「それはありません。気になさらないでください」
「よかった、、、、、」
迦螺霧は目を閉じた。
「人も妖しも、同じ命。いつか、皆がそう思える世界になればいい」
「そうですね。お休みなさい」
遠くで声が聞こえた。
「眠りましたか」
「ええ」
『これは、、、、』
迦螺霧は寝台に横たわる自分を見ていた。傍らにはキリエと紫水。
『終わったか、、、、ありがとう』
キリエが振り向く。視線が合い、キリエは役者のように一礼した。
『見えてる?まさか、、、、、ん』
突然眩しい光に包まれた。
カラカラと音がした。
『ここは、、、、、』
見回してみれば知らない街だった。建物も、歩く人々が着ている服も、迦螺霧は見たことがない。
『どういう、、、、ことだ。私は、、、、』
同じ妖しに討たれ、森の中で息絶えたはず。歩き出し、大きな鏡の前を横切った時
『そうか、、、、』
そこに自分の影は無かった。そして身体がふわりと浮く。そんな自分を気にかける人もいない。
『息絶えたことは確かだな。しかし、、、、ここは』
風のように人の間を抜ける。しばらくそうしている間に聞こえた話から判った事は、キエヌという街の名前だった。
『キエヌか、、、、里からどのくらいの位置にあるのだろう』
そのうちに出たのは港の近くだった。目の前に広大な海が広がる。と
「白竜さん」
『何、、、、だと』
声に振り替えると男が2人。
『白竜、、、、まさか』
迦螺霧は2人に近づいた。
「白竜さんの店に、この酒置いてありますか」
「置いてありますよ。そろそろ買わなきゃ」
「ちょうどよかった。じゃ、使ってください。仕入れ間違ったみたいで」
「仕入れ代はかかっているんでしょう。店に出しておいたら」
「この酒、うちの店じゃ人気無いんですよ」
「ただっていうわけにも、、、、なら、買い取ります。そのお金で仕入れ直してください」
白竜と呼ばれている男は、未踏の雪のような髪色をしている。そして、愛した人の面影を宿していた。
迦螺霧が知っているのは双子の名前。間違いない。
『白竜、、、、この街で生きていたのか。蛍雪は、、、、』
「じゃあ、そうさせてもらいます。後で店に行きますね」
「判りました」
2人は別れた。迦螺霧は白竜の後について行く。白竜は酒場が並ぶ一角に入り、裏に回った。
『この家か』
玄関を叩きしばらくすると、小さく扉が開いた。外を隙間から外を覗いたのが蛍雪。
「お帰り、兄さん」
「ただいま」
『蛍雪、、、、生きてくれたんだな、、、、2人とも』
迦螺霧は言葉にならず双子を見つめる。辛い思いをしてきただろう。今の迦螺霧には何も返せない。それでも
『、、、近くにいさせてくれ』
迦螺霧は距離を置いて2人を見守ると決めた。
「、、、、、そういうことですか。紫水?」
「いえ、、、何でも」
「、、、、創り手と同じ名前を持つ貴女は私以上に、この箱庭で生まれて消えていく想いを感じるのでしょうね」
キリエはそっと紫水を包む。
「喜び、悲しみ、苦しい、嬉しい、、、、、混ざり合うその痛みを、少しは代わってあげられたらいいのだけれど」
「大丈夫よ。貴方がいるもの」
「紫水、、、、、」
「泡沫の紫水には、貴方がいてくれる」
「ええ。私は貴女だけのもの。少し歩きましょうか」
寄り添い、歩き出した。蒼が息づくこの箱庭で、想いの糸は静かに紡がれていく。