回顧録

迦螺霧の昔話です。テキストのみで写真はありません。

(迦螺霧と双子については、物語の <宵闇草子・Crossing Road・妙薬> も参考にしてくだい)


               世界のどこかに、長い間対立している里があった。人と妖し。

               人は己に無力を持つ妖しを恐れ、その恐怖は ”自分たちに害を成す者” との認識を生んだ。

               自分たちにとっての災いは妖しが起こしたとすり替え、恐れは長い時間の中で憎しみへと変化する。

               妖しもまた、自分たちに向けられた憎しみに我慢が出来なくなった時、憎しみに憎しみで返した。

               それから、長い時間が過ぎた。


               光も拒むような森の中。

               「もう逃げられないぞ」

               「憎んでどうなる。憎まずに生きていく方法はきっと」

               「ほざくな!裏切者が!」

               迦螺霧は妖し。だが、同じ妖しに裏切者として追われていた。その理由は人の娘を愛したからだ。

               愛し合い、これが最初で最後と肌を重ねた。その一夜で娘は双子を宿した。

               人目につかぬよう、どうにか娘の元にたどり着いた迦螺霧は双子の存在を知る。そして、母は二度と会えないと告げた。

               人と妖し。せめて静かに、それぞれに生きること。そんな迦螺霧の願いは、同じ妖しから反感を買った。

               「人と相いれるだと?憎まれて、それでも我々は耐えてきた。先に手を出したのは人のほうだ」

               妖し側に伝わっているのは、先に人が手を出し説得しようとした妖しの長を手にかけたという話。

               とはいえ真実を知る者はすでに無く、人の側では逆に伝わっているのかもしれない。

               そしていつからから始まった、人質の交換。

               「、、、人里から帰ったあいつは死んだよ」

               「、、、、、」

               「戻って来た報告を長に入れて何日も無かった。向こうで何があったのか、一言も口を開かずにな」

               「それをしなくてもすむ方法を探したいんだ」

               「今更、、、、出来るか!」

               男は迦螺霧を空中に叩き上げると、勢いをつけたままで巨木に打ち付けた。

               「っ、、、ぐ、、かはっ、、、」

               「、、、、打ち返してこいよ」

               「、、、でき、、、ない、、よ」

               「哀れみのつもりか、、、、そんな目で、、、見るな!」

               男が最後に向けたのは、純粋な憎しみだった。


               男が去ってからどれくらいたったのだろう。全身に傷をつくった迦螺霧は、指先一つ動かなかった。

               「つっ、、、、う、、、、(何故憎まなければならなかった。始まりなど、、、誰も、、、覚えていな、、、い、、、)」

               痛みが薄れていく。だがそれは、もう手遅れだということ。愛しい人の顔を思い浮かべ、迦螺霧は目を閉じた。


               「気がつきましたか」

               「え、、、、、」

               声が聞こえ目を開けた。すると、1人の女性が傍らにいた。

               「こ、、、、こは、、、、」

               「動くの無理です」

               起き上がろうとした迦螺霧を、女性は止めた。

               「、、、、あの森で、、、、あなたが」

               人が通るような場所とは思っていなかった。まして女性とは。

               「助けて、、、、頂いて、、、うっ、、、つ」

               意識が戻ったとたん痛みがぶり返す。

               「喋らないで」

               「この、、、、傷では、、、もう、、、」

               そこにもう1人が入って来た。

               「ありましたよ」

               「ありがとう」

               入ってきたのは男性だった。女性に何かを渡す。

               「痛み止めです。気休め程度だけれど」

               「ここは、、、どこ、、、、」

               「人里と妖しの里の境界線。人里になります」

               「あ、、、、ならば、、、う、、、く、、、」

               「静かに」

               「、、、、私のことは、、、妖しを助けた、、、、など、、、知れたら、、、、」

               ゆっくりと抱き起された。

               「同じ命です。人も妖しも」

               その言葉に、迦螺霧は女性を見つめ返す。

               「同じように笑い、悲しみ、他者を愛し、憎む」

               「、、、、そう、、、、思って、、、」

               「横になっていてください」

               「ありが、、、、とう、、、」

               「ん、、、、、、」


               鳥の声で目が覚めた。

               「朝、、、、、」

               窓からは、柔らかい光が差し込む。小さなノックがして扉が開いた。

               「おはようございます。覚えていますか?昨日のこと」

               入ってきたのは男性の方。

               「はい、、、、お手数を、、、、」

               「出来るだけのことはしましたが」

               理解するのに時間は必要なかった。

               「いえ、、、もう一度この光を見ることが出来ただけも。誰かに看取られることなど、諦めていましたから」

               あの森で1人命を終えると思っていたのだ。心静かに迎える最後に、迦螺霧は感謝していた。

               「見ず知らずの方にここまで、、、、本当にありがとうございます。遅れましたが、迦螺霧といいます」

               「私はキリエ。もう1人は紫水です。飲める物お持ちしましょう」

               キリエは部屋を出た。


               廊下でワゴンを押してきた紫水と会う。

               「目が覚めましたよ」

               「そう、ちょうどよかった」

               「彼は、月光に迎え入れないということですか」

               「ええ。別の姿で、泡沫の物語を紡いでもらうそうよ。その時には、私たちのことを忘れるでしょうけれど」

               「ならば何故、紫水は私たちと彼を会わせたのだろうね」

               「全ては、創り手の紫水の想いのままに」

               「ええ、、、、、」

 


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