
戦火の爪あと
「、、、、イーリス様」
色が異なるというだけで、その理由もわからぬまま戦は続いている。
白の双翼の将イーリスの陣は、黒の一軍に追い込まれた。
「全員集めて。これ以上争っても、私たちの負けです」
「いいえ。どうか迎撃のご命令を」
「それだけは許さない。、、、負け戦に更なる犠牲を出すことは愚かなだけ」
「イーリス様、、、、」
「私の力不足なだけです。皆にはすまないと」
「、、、、、」
一箇所に集められたイーリスの軍の前に、黒の双翼が立った。
「イーリス、この軍の将で間違いないな」
「私と引き換えに、他の皆は解放してください」
「イーリス様!」
「ご一緒します」
上がる声にイーリスは首を横に振った。
「これは将の責任。それに、皆には助けられたから今までこれた。
そのお礼をさせてもらえませんか」
「、、、、、なるほど。将としての心がけは見上げたものだ。わかった」
「ありがとうございます」
「イーリス様っ!」
呼び止める声、すすり泣く声を背中で聞きながら、一人黒の陣へと身を投じた。
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「づっ、、、、、」 放り込まれたのは囚人用の塔。 「う、ぁ、、、」 架けられた枷に、更に何かしらの術がかかった。 「、、、皆は、、どうか、、」 「こうまでなっても、心配は軍の者か。、、、努力はしよう」 「、、、、ありがとうございます」 足音が遠のき、格子扉が閉じた。 いつまでなのか、この場所で生を終えるのか。 永遠に囚人となるか。 それとも、ここを出る時がくるのだろうか。 だが、いくら考えても答えがないことはわかっている。 闇の中、長すぎる時の始まりだった。 |
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異なる空間に同時に存在する2つの世界。 その一方に、背に翼を宿す者が生きている。 有翼が住む世界を束ねるのは白銀の翼を宿す者。 白と黒両方の頂点に立つ唯一絶対の存在だった。 通称「白銀の統括」。 白銀の統括の居城は2つある。 主に白が住む居住区と、逆に黒が住む居住区。 現白銀の統括、ルトヴァーユの元にその知らせが来たのは 「塔の封印が解けそうだと、、、本当ですか」 「はい。ガラスが鳴るような音が止まらないと、報告がきました」 「封印が解ける、、、、」 居住区の外れには高くそびえる塔があった。 だがそこは、いつからか強力な結界が侵入者を拒んでいた。 ルトヴァーユでも解くことはできない。 過去によほど力のある者がかけた、かけた当人しか解けない結界。 あるいは、かけた当人が解ける時期を決めた上で 「かけた当人が解いたのか、それとも、、、。行ってみましょう」 「お願いいたします」 ルトヴァーユは塔へと向かった。 |
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塔の前には数人の姿があった。何が起こるか警戒しつつも、興味があるといったところだろう。
ルトヴァーユが降り立つと道をあける。
「全員戻りなさい。あとは私のほうで見ます」
「しかし、何があるか分からないのに統括様だけ残すわけには」
「だからこそ、もし身を守る必要がでたら全員を抱えての防衛は無理です。
誰かがいたとして、その相手が分からない以上、一人のほうが安全ですから」
何かが封じられていたとして、争うような事態になったら周りを気にしながらよりは己だけを守るほうが楽。
それは当然の判断といえよう。何よりも白銀の命令は絶対のもの。
食い下がる相手はおらず、ルトヴァーユを残し引き上げていった。
一人になったのを確認すると、そっと結界に触れる。弾かれることは無く、音がいっそう大きくなった。
「待っていても同じだな」
結界に触れたまま小さく唱える。ガラスが砕ける音とともに結界が破れた。
ゆっくりと中へ進んだ。
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物音も人の気配もない。塔の中の小さな明かりが影を作る。 幾つかの部屋があったが、何も無い空き部屋だった。 やがて塔の最上階にたどり着いた。 そこにあったのは、やはり封印のかかった格子扉。 その向こうに、枷に囚われ床に転がった状態の人がいた。 暫く伺っていたが動く様子は無い。 塔の結界が解けたからか、扉のものはさほど強くなかった。 これを破り近づいてみる。 「息はあるか、、、。いつからここにいるんだろう」 ルトヴァーユは眠っている相手の近くで気をはじいた。 「ん、、、、」 相手がゆっくりと目を開く。 「気がつきましたか」 「、、、、ここ、、は、、あなた」 「私はルトヴァーユ。あなたは」 「、、、、イーリス。あの、、いつなんですか、今。戦いはどうなって」 「この塔にかかっていた封印が解けたんです。 「封印が解けた、、、、?」 「争っていた頃に捕らえられた将といったところか。 「出る、、、?」 「封印が解けたのだから、解放するつもりはあったと思いますよ。 「停戦、、、、あ、皆は?私が預かっていた軍の皆は」 イーリスはルトヴァーユの腕をつかんだ。重く鈍い音が鳴る。 枷にルトヴァーユの手が触れた。 「ひっ!う、、、触らないで、、、」 「、、、、、、」 「他の、、、誰かが触れると、、、くる、、し、、」 「(手の込んだことを、、、いくら敵の将でも)少しだけ我慢して」 「や、、、やめ、、っ!!」 瞬間体が締め付けられた。と同時に枷が砕ける。 イーリスは呆然と自分の手を見つめた。枷が無いほうが違和感を感じる。 「あなたは自由です」 「、、、でも、、私は何をすればいいんんですか」 イーリスはルトヴァーユを見た。途方にくれた旅人のように。 戦の頃からイーリスの時は止まったまま。さすがに、一人にはできなかった。 ルトヴァーユはイーリスを抱き上げた。 「え、、、、」 「体力も無いに等しいのでしょう。落ち着くまで私のところにいなさい」 「ありがとう、、、」 抱き上げたイーリスは恐ろしいほど軽い。 こうまでして争わなければならない。そんな時代があったという事実。 どんな言葉よりも、イーリスがそれを伝えてくる。 静かに塔を下りて外に出た。翻った翼にイーリスは息を呑んだ。 「白銀、、、、」 「このまま飛ぶから動かないでください」 イーリスを抱いたまま、居城の離れへと向かった。 |
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