


翌朝。
「、、、ん、、、アリステア?」
目覚めたローゼスの隣にアリステアはいなかった。首に触れてみる。牙の跡はない。
「そうだ、、あの時」
唇を重ねたあの時、アリステアは言った。「すまない」と。いいようのない不安が沸く。
ローゼスは部屋を飛び出した。
「アリステア!何処だ!」
手当たり次第に部屋を開けていく。いくつ目かの部屋で、グラスを片手にしているアリステアがいた。
「アリステア、、え?」
アリステアの手にあったグラスがするりと抜ける。
だがそれを拾うこともせず、腕が落ちた。
駆け寄って抱いたアリステアの体は冷え切っていた。
「、、、何が、、アリステア!」
閉じていた瞳がゆっくりと開く。
「どうしても、、、出来なかった、、まだ、人だよ」
「そんなことはどうでもいい!説明しろ!」
「、、すまない、、愛してる、、」
力の抜けたアリステアの体がソファーへと沈む。
「、、、アリステア?アリステア!」
だが、いくら呼んでも声が返ることはなかった。
「どうして、、、」
座り込んで動くことの出来ないローゼスの瞳に封のされた手紙が映った。
それを乱暴に開けた。
私を恨むだろうか。ずっと待っていた。私を愛してくれる誰かを。
私はこの長すぎる生を終わらせることが望みだった。
だが私には、毒も、十字も、陽の光も効かない。
唯一愛してくれる誰かの口付けだけが、私の望みをかなえてくれる。
お前を同族にしてここを出ることも考えた。だが、出来なかった。
お前が愛してくれたから、お前を愛したから。
私の我侭だ。すまない。 アリステア
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「、、こんな、、こんな別れ方があるか、、起きろ!」
指先ひとつ動かないアリステアを抱きしめる。
「何処へだって、、いつまでだって逃げたのに、、そう言っただろう?、、、どうして、、」
「ローゼス」
いつの間にかエルテが来ていた。
「私が、、アリステアを殺したんだ」
「違うよ。アリステアを、その魂を救ったんだ」
「殺されるのを待ってたっていうのか?死ぬために生きてきたのか!?
殺すってわかってたらあんなことしなかった!」
「自分を責めるな」
エルテはローゼスを引き寄せる。不思議とあのときの恐れはなかった。
「ずっと、、苦しんでた。不器用なやつだから。
どちらにもなれない、自分自身を認められなくて。
やっと、、、楽になれたんだ」
「、、、、エルテ、、」
「陽が落ちたらここを出る。ローゼスはどうする?」
「、、、、、」
「街に戻るか、それとも一緒に来るか?」
「、、、アリステアのところに行く」
「、、、、、」
それがどういうことか、わからないはずがない。
「私たちと会ったこと、後悔しているか?」
「してないよ」
ローゼスはふわりと笑った。
「同族にして、連れて行けばいいのにな。
やっと、愛してくれる誰かと出会ったのに」
「エルテは何処に行くんだ」
「わからん」
「でも、生きるんだろう?」
「生きるさ。存在すらも許されない命なんてあるものか」
エルテはローゼスを離すとアリステアを静かに横たえた。
「言葉として合っているかはわからないけど、元気で、、何を、ぐあ」
牙が食い込む。だが苦痛ではなかった。ふわりと体が浮くように。
柔らかな羽に包まれているように。
「、、何、、、軽い、、、」
力の入らないローゼスを抱くとアリステアの傍らに寄せた。
「、、、せめて、私に出来ることはこれくらいだ。苦しまずに眠れる」
「、、、ありがとう、、」
「、、、じゃあな」
部屋を出て行くエルテをぼんやりと見送った。
そして隣で眠るアリステアにそっと手を添える。
「どこまでも、、一緒だ。次に目覚めたら、楽園に着いているといいな、、、」
ローゼスは静かに瞳を閉じた。
その日の夜、屋敷に乗り込んだ人間が見たものは、互いを守るように寄り添って眠るアリステアとローゼスだった。
人垣の中から剣を背負った若者が進みでる。
「永遠を手に入れたか」
長年追ってきた相手。陶器のように美しい輪郭をなぞった。
2人がたどり着く場所が楽園であることを、何処かで願いながら。