

「降りだしたか、、、」
うっそうとした森の中で降りだした雨をよけようと、ローゼスは洞窟へと駆け込んだ。
「誰も、、私の心配なんてしないよな」
その雨を聞きながら、思う。
自分から飛び出してきたようなものだった。
生まれてすぐに母親を失い、父に育てられたがその父が再婚した。
そしてその相手は、先妻の忘れ形見である自分をあからさまに疎んじた。
そして父も、謝りながらも止めようとはしなかった。
後妻と、その間にできた弟を失いたくないがために。
あの家を飛び出したところで行くところもないが、戻る気にもなれない。
不意に、ローゼスは街で噂になっている「永久の楽園」を思い出していた。
それは、この森の何処かにあるという場所。だがその楽園は人を選ぶという。
いくら人が訪れることを望んでも、楽園が認めなければ立ち入ることは出来ない。
そして、この楽園を目指した者は記憶をなくして戻ってくる。
だから誰もその場所を知らないのだ。
「人を選ぶ、、私にその資格があるのかな、、」
土砂降りの雨の中、ローゼスは楽園を目指して歩き出した。
足元が不安定な夜を手探りの状態で進む。全身を打つ雨が身体を冷やしていった。
「、、、はあ、、寒、、、」
だが吐き出す息は熱い。どれだけ歩いたのだろう。急に目の前が開けた。
その光景にローゼスは息をのむ。
「まさか、、、楽園?」
一面、蒼い花で埋め尽くされていた。見たことのない、美しい花だった。
花の香りか、柑橘のような匂いが漂う。ローゼスは花弁を口に含む。
蜜のような甘いそれに誘われるように、花の中へと埋もれていった。
「、、、ん、、、」
パチ、と木の弾ける音がした。
「、、、どこ、、」
ローゼスは知らない部屋のベットの上にいた。ゆっくりと上体を起こす。
「、、え!」
そこで自分が何も着ていないことに気がついた。代わりに纏っているのは柔らかい布だった。
部屋の扉が開く音に、慌てて胸元へ寄せる。
「気がついたか」
入ってきたのは、切りそろえられたブロンドにアメジストの瞳を持った
美しい若者だった。手に持った服をベットに置く。
「え、、と、、ここは」
ローゼスの問いに若者は外に面した窓を開ける。
月光に映し出されたのは、あの蒼い花だった。
「屋敷の敷地内だ」
「あ、、ごめんなさい、勝手に入り込んで」
若者はベットに座ると、その瞳で覗き込んだ。
トクン、と、ローゼスの鼓動が鳴る。
「うなされていた。悪い夢でも見たか?」
「いえ、、、あの、助けてくれてありがとう。私はローゼス」
「、、、アリステアだ。まだ熱があるだろう。体が落ち着くまではいるといい。
連絡が必要なら、手紙でも書いておけ」
「、、、わかった」
見当違いな返答のような気もするが、思考が回らない。
表情ひとつ動かさぬまま、アリステアは部屋を出た。
自分の胸の鼓動だけが、やたらと大きく聞こえていた。