


黒水晶 〜オニキス〜 の姫君(T)
<泡沫>の中央都市キエヌ。キエヌの郊外には森に囲まれた塔がある。
塔の住人の名はシャルミラとキュリオ。いつものように、お茶の香りから一日が始まった。
「お茶の葉、無くなりそうだ」
「今の葉はいいものだったから、無くなるのも早かったのでしょう。
またお願いしますね。要る物があれば一緒に買ってかまいませんよ」
「うん、わかった」
2人はキエヌでいうところの”人”ではない。
このキエヌには、同時に平行して存在する別世界への入り口がある。
元々は向こう側の住人であり、背に翼を宿していた。
シャルミラは白。キュリオは黒を。
キュリオは過去に一方を失い、今は方翼であった。
シャルミラとこの塔で暮らし始めた最初の頃は
失った時の痛みと恐怖に脅えてばかりだったが
時が過ぎ、今はこの地で静かに暮らしている。
「ん?」
「シャルミラ?」
カップに伸ばしたシャルミラの手が不意に止まり、ソファーを立った。
「どうかした」
「、、、、誰か来ますね。結界の中に入った」
この塔は目くらましの結界に囲まれている。
たどり着けるのは有翼側の者か、その流れを汲む者。
「気配でわかりそう?」
「いえ、、、そこまでは」
キュリオは外を見た。
しばらくすると木々の間から一人が姿を見せた。
キュリオを見上げた相手に覚えはない。
シャルミラを連れ戻しにきたのではないか。それがキュリオの脳裏を過る。
「僕は知らない人だけど、シャルミラ、わかる?」
呼びかけにシャルミラも窓に寄る。見えた顔は知った相手だった。
「ええ、、、知った相手です」
「そう、、、なの」
「ここまで来る用があるとも思えないけれど、何の気まぐれだか」
言いながらも、シャルミラは結界を緩めた。それに気がついた相手が、中へと入る。
「僕はいないほうがいいかな」
「キュリオに聞かせたくないような話なら、こちらから断ります」
「、、、新しいお茶、用意しておくね」
消せない不安を残しながらも、新しいお茶の支度を始めた。
「久しぶりだね、シャルミラ。どう、その後」
「特に変わりもありません。彼は、アウラクア。古い知り合いです」
「初めまして」
「よろしく」
艶のある深い紫色の髪が揺れた。
「ここまで来るなんて珍しいですね。私に何か」
「これっていう用事は無いけど、どうしてるかと思ってさ。
キエヌに移ってから顔見せないんだもの」
「出向く用事もありませんから」
「そいつは建前だろう。本音は向こうを嫌ってる。違うかい?」
「、、、、、」
瞬間、シヤルミラの表情が険しくなる。
やはり自分は外したほうがいいではない。
そう思ったキュリオが動こうとした時
「ふふ、、、、まったく、変わりませんね。あなたも」
それは、久しぶりに会った友人に向けた笑みだった。
「シャルミラにとって、向こうが居心地がいいとは思ってないよ。
帰ってこいって言うつもりもない。
けど、皆が揃って反感を持ってる訳でもないんだからさ
たまには顔見せて。会いたくなったら、あたしからも来るけどね」
「あの、、、、」
おずおずと声をかけたキュリオにアウラクアの顔が向く。
「やっぱり、シャルミラには帰ってほしいって
そう思ってる人が多いんですか?」
「キュリオ、、、、、」
シャルミラとキュリオの間にどうしても残るもの。
互いに気にしなくてもいいと言っても、捨て去ることはできない。
「まあ、、、統括に一番近い統括候補っていわれてたくらいだから
あの一件がなければ白の統括だったろう。
それを待ってた連中がいたのは事実だよ」
「もう昔の話です。統括の立場に興味はないし、戻るつもりもない」
「ごめん、、、、信じてるけど」
「外野の言うことなんか気にしなさんな」
それが当然だと、キュリオに向かって頷いた。
「シャルミラがこっちにいるのは、自分がそうしたいからさ。
本人の意思を無視していくら騒ごうが、そんなのほっとけばいい。
少なくとも、あたしは2人の味方のつもりだよ」
「アウラクアさん、、、、ありがとう」
「あたしのことはアクアでいい。アウラクアなんて、舌噛みそうだろう」
シャルミラと自分がいることを認めてくれる相手。
キュリオにとっては、何よりも心強い存在だ。
「もう少し、もらえるかい」
「はい」
3人はゆっくりとお茶の時間を楽しんだ。