


夜。
「、、、ん、、シ、、、ア、、」
「兄さん、わかる?」
半日たってようやく瞳が開いた。
「、、、何が」
「工房の中で事故があったの。積んであった材料が崩れて。
でも、またすぐに戻れるわよ」
「、、、もう無理なのかな」
「そんなことない。戻れるってば」
「、、、シアが泣いてるよ」
「え、、、」
言われるまで気がつかなかった。
「母さんのこと頼むな」
「いやよ」
「シア」
「そんな言葉聞きたくない!」
「なあ、聞いて」
「考えないでよ、そんなこと。確かに時間はかかるって言われた。
だけど戻れるから。もう一度始められるから。
信じて。手伝えること何でもするから。夢が叶うの。
兄さんの飾り細工見せて。お願い」
シアは必死だった。厳しいことはわかっている。
命は取り留めても、手がおもうように動かなくなる可能性は高いとも告げられた。
それでも、生きて欲しいから。
「シア、のど渇いてる。何かないか」
「持ってくるわ。すぐ戻るから」
シアが部屋を出るのを確かめてサリュは小さく呟いた。
「アイゼン、いる」
アイゼンの姿が浮かぶ。
「サリュ、、、」
「いてくれると思ってた」
「私は、、、」
どう償えばいいのだろう。守護どころか、自分が招いた最悪の事態。
何を言えばいいのか。何が出来るのか。
「教えてほしいことがあるんだ」
「はい」
アイゼンはサリュの傍らによる。感覚を戻し、サリュの手を取った。
「イザベラって誰?」
「、、、何故その名前を」
サリュからイザベラの名前が出るとは思わなかった。
ただ驚いてサリュを見る。
「声が聞こえた。女の人で、アイゼンは渡さない。自分のものだって」
「、、、、、」
「それに気をとられて足を止めたらこうなってた。
誰だって思ったら、イザベラって言ったんだ。教えて」
「、、、私の生前の婚約者です。でも、叶わないまま命を落として」
「、、、だからか。俺はそのイザベラの生まれ変わりなんだ」
「違います。サリュはサリュ以外の誰でもない」
「でも、俺を見てるようでイザベラを見てた。あの時も」
「いいえ、、いいえ!しっかりしてください。お願いだから、サリュ」
「シアもアイゼンも、見舞いのほうが泣いてどうするんだよ」
サリュの手がアイゼンの頬に伸びる。
「、、、眠い、、」
「サリュ?」
思考が回らなくなってゆく。柔らかな羽に包まれているように暖かかった。
「作るのでしょう、美しい飾り細工を。お願いです。私にそれを見せて」
「、、、迎えが来たみたい」
「、、、、あなたは」
サリュの視線の先に白い翼を持つ者がいた。
「この魂は無条件で天界行きです。転生してまた生まれてくる」
「、、、待ってください。どうか、サリュとして生きさせて!」
「それを言えると、思っているのですか?その資格があるとでも」
「、、、ミゲルさま」
「アイゼン、シアと母さんのこと守って。俺の分も、、」
「サリュ!」
サリュの手が落ちた。そしてその魂が淡い光の玉となって体から抜ける。
ミゲルの手に抱かれ、天へと飛び立っていった。
「そんな、、何のために私は、、」
自分が殺したのだ。守護たるべき自分が。
失っていたと思った涙が止まらなかった。
人ならば、いっそ自らの命で償えるものを、それも叶わない。
サリュは穏やかに微笑んだまま横たわっていた。
「どうしてそんな顔をしてるんですか。どうして、、私を責めないの」
カタリと背後で音がした。シアがコップを持って戻った。
見えてはいないがアイゼンは場所をあける。
「ごめん、遅くなった。、、、兄さん?」
反応のないサリュに気がついたシアの手からコップが落ちる。
「嘘、、、だって、兄さん!」
すがりつき呼び続けても言葉は返らなかった。
「眼開けてよ!さっきまで話してたじゃない!」
シアの言葉がアイゼンに突き刺さる。
だからといって、何がおこったのかを全て話したところで慰めになるのだろうか。
「いや、、こんな、、いやあっっ!」
悲鳴のような絶叫だった。耳を塞いでアイゼンは逃げた。