願いを受け止めし花嫁
そして日曜日。
2人は、ほぼ同時刻に待ち合わせ場所に着いた。
「お待たせ」
「こっちも今来たところよ。行こうか」
店を選んだのはミサキ。
繁華街から少し離れた、落ち着いた雰囲気のレストランだった。
窓際の席を取りメニユーを広げる。
「メインにしても野菜が多いのね。こんな使い方もあるんだ」
「意外でしょう。テレビで紹介されたから12時回ると行列になるわよ」
注文を入れ、先に運ばれたコーヒーで一息ついた。
「それにしても、最初のお客がリナになるなんてね」
「お店、あの日がオープンだったんでしょう」
「そうよ。あの店に移動になって最初に対応したのがリナ」
「そうなんだ。ミサキに再会できて、担当になってくれて嬉しいわ」
「世界一綺麗な花嫁にしてあげる。幸せにならなきゃだめよ」
「ありがとう」
リナの指で小さな光が揺れた。
「ミサキ、あの人形ってマネキンとは違うわよね」
「量産してるマネキンとは、全くの別物でしょう。
あたしが出社したとき、ちょうどディスプレイの作業中だったの。
イツキさんだったかな。人形を造るのが仕事なんですって」
「手作りの一点ものなんだ。それなら高くても納得できそう」
「その時に、イツキさんこう言ったの。
どんなに美しい人形でも、幸せな笑顔の花嫁にはかなわないって。
あたし、それ聞いたとき嬉しくなって。
お店にきてくれるお客様には、ずっと笑顔でいてほしい。
そのためのお手伝いを頑張ろうって思った」
「素敵な人ね。それに、ミサキも今の仕事向いてるわよ」
「お待たせしました」
バジルの香りと共に、料理が運ばれてきた。
「いい香り」
「食べよう。お腹すいちゃった」
おいしいランチと共に、2人懐かしい時間を楽しんだ。
その帰り道。別れたミサキは周辺を歩いてみることにした。
店先を眺めながら散策していると
「あれは」
車道を挟んだ向かい側。
一際大きなショーウインドウから、いくつもの人形が自分を見ていた。
「まさか、イツキさんのお店」
名前は聞いたが、店の場所までは聞いていない。
イツキの店ならば、人形が導いた嬉しい偶然か。
ミサキは道を渡り店に入った。
「いらっしゃいませ」
出迎えたのは、輝くブロンドの髪をした青年だった。
「あの、ここってイツキさんのお店ですか?」
「そうですよ。待っててくださいね」
青年は仕切りの奥に入り、ほどなくイツキが姿を見せた。
「こんにちは」
「いらっしゃいませ。ようこそ人形の店へ」
「人形の店、、、、」
言われればその通りなのだが、ミサキは改めて店内を見る。
「これだけの人形に囲まれると圧巻ですね」
「リアルな人形は苦手という方もいますが、ミサキさんは大丈夫ですか?」
息遣いが聞こえてくるような、そんな人形たち。
だが、怖くはなかった。
「はい。大丈夫です」
「座ってください。お茶をお持ちします」
促されソファーに座る。
イツキは一度奥に入り、カップを持って戻った。
「どうぞ」
「いただきます」
微かに香るのは薔薇だろうか。
「すごく贅沢なものをいただいる気がする」
「たいしたものではありませんよ」
「この人形って、全部イツキさんが造ったんですか?」
「メーカーから仕入れている物と私の物と、両方あります。
一体フルに造るとなると、それなりに時間も必要ですから
私の作はそんなにありませんけどね」
「じゃあ、サロンの人形も随分かかってますよね」
「店を半日開けながらでしたから、それなりには」
「あんなに綺麗な人形を造り出すなんて、尊敬しちゃいます」
「ありがとうございます。ですが、技術はまだまだですよ」
「あの人形でも?」
「納得してしまえばそこで終わり。続ける間は修業中です。
だからこそ、曖昧な妥協はしないよう心がけています」
それはプロとしての意地と誇り。
イツキの姿勢がそのまま反映されるから、人形は人を魅了するのだろう。
「サロンの人形も好評で、多くの人が足を止めてます。
あのドレスを着たいっていうお客様も、けっこういらっしゃるんですよ」
「さすがにあのドレスは難しいのでは」
「そうお伝えすると、あの人形みたいに綺麗な花嫁になるって
笑顔で楽しそうに話されて。
イツキさんの人形が来てくれて本当によかったって思うんです」
「人形が見て下さる方に笑顔をもたらすのなら、私としても何よりの喜びです」
(不思議、、、、表情が動くはずないのに笑ってる気がする)
イツキのそんな心を知っているのか、人形たちが微笑んだ気がした。
またそんな人形たちに囲まれているこの空間を、ミサキは心地よく思うのだった。
リナたちとの打ち合わせを数回重ねたある日。
サロンに一本の電話が入った。
「はい。<ホワイト・ブーケ>でごさいます。こちらこそ、お世話になっております」
電話は、リナの婚約者からだった。
「はい。え、、、いつですか。それで容体は?そうですか、、、、。
わかりました。もちろん私のほうはいつでも。
あの、差し支えなければ病院を教えていだだけませんか。
、、、、、はい、わかりました。ありがとうございます。
今は焦らないで、大事にしてくださいね。はい、失礼します」
ミサキは電話を切った。
「どうしたの」
同僚の一人が声をかけてきた。
「今担当してるお客様が、事故で入院したって」
「え、、、、」
「単純骨折だから難しくはないっていうけど、こういう時期だからね」
「そう、、、、でも怪我を治してまた来てくださった時に、笑顔で迎えてあげれば大丈夫よ」
「ありがとう」
次の休日、ミサキは病院へ向かった。