

命の理を司る2つの世界。
白き翼を持つ者が治める「天界」。漆黒の翼を持つ者が治める「冥府」。
この2つを繋ぐのは「空の通路」と呼ばれる何もないただの空間だった。
互いの世界を行き来できるのは、それぞれの世界を束ねる統治者のみ。
普段は人の影などありえないこの場所に白き翼を持つ者がいた。
「ふう、、、痛っ」
白き翼を統べる者ミゲル。
傷ついた翼を何とか収めたものの、焼けるように背中が熱い。
そして心配そうに覗き込むヴァリティーエ。
「まさか、こんなことになるとは、、、」
天界は、統治者の下に評議会という組織を持つ。
そしてこの評議会はよくいえば真面目、悪く言えば融通が効かず規律にうるさい。
そのことに対する批判もなくなかったが、気にとめようとはしなかった。
規律は絶対だとする評議会と、機能が狂わなければ出来るだけ
融通を効かせようとしたミゲルの間に生まれた亀裂が徐々に深まり
ついに評議会は統治者を廃するという行動にでた。
争うことを良しとせず、天界を出ようと羽ばたいたミゲルの翼に
矢が放たれたのはそう時間を置かずしてのこと。
空中でバランスを失い地に叩きつけられるぎりぎりのところで
ヴァリティーエに抱きとめられなんとかここまで逃れてきたのだ。
「私が、、、甘すぎたのでしょう。あなたまで付き合うことはありませんよ。
戻りなさい、ヴァリティーエ。今ならまだ天界への門を開けられますから」
「閣下を捨て置くなどできません」
「私にはもう、、、戻る場所などないのだし」
「ではご命令ください。天界での統治者の立場を取り戻して来いと」
「ヴァリティーエ、、、」
「ご命令くだされば、必ず」
真剣そのものだった。命じればやり遂げてくるだろう。
だがミゲルは首を横に振った。
「それは出来ません」
「しかしこのままでは」
「このまま骸になるのも、仕方ないでしょう」
「閣下!」
常に穏やかな瞳が厳しさをもってヴァリティーエを見た。
「無用な争いは避けるべきです。天界が混乱すれば冥府と地上をも巻き込むことになる。
私一人を助けるために大勢の命や魂を犠牲にすることはできません」
それでもヴァリティーエはやりきれない。その心を察してかミゲルはヴァリティーエに微笑んだ。
「ありがとう、ヴァリティーエ。あなたは優しいですね。
でも、私たちが司る命の理とはそれだけ重いものなのですよ」
これ以上は何を言っても無駄だろう。
捨て置くことなど出来るはずもないないが、天界に戻れないとなれば場所はひとつしか残らない。
「では、冥府へ身を寄せることをお許しいただけますか」
「、、、、、」
「天界を、、、、追われたなど屈辱だとは思います。けれど私は閣下を助けたい」
「わかりました。そこまで言ってくれるのなら、、任せます」
ほっと、ヴァリティーエから安堵のため息がもれる。
冥府への道を探してあたりを見渡すが、それらしきものは見えなかった。
「閣下、冥府への扉はどこになるんですか」
「ここに、目の前にありますよ。少し待ってください」
低く唱える。すると、身の丈ほどの楕円形の光が浮かんだ。
「これが、、」
ヴァリティーエは扉へと手を伸ばした。だが、すぐに弾かれた。
「扉を見ることができるのは統治者のみ。
そして冥府の扉は冥府の統治者しか開けることはできません」
声が弱くなる。揺れた体をヴァリティーエが支えた。
「お休みになっていてください。話はとうします」
ポウと光が揺れた。
「届いたようですね」
ほどなく光を抜けるように現れたのは真珠色の髪をした冥府の統治者セラフィス。
「扉を叩いたのはあなたですか」
「天界に仕えるヴァリティーエと申します。
こちらは統治者のミゲル様」
「事情は中で聞きましょう。どうぞ」
そのあっけなさにいささか拍子抜けするも、ヴァリティーエは冥府へと足を踏み入れた。