「ですから、もう少しご自分の立場を自覚してください」

「お前も意外に頑固だな。もう諦めてもいいころだろうに。ある意味感心するよ」

「していただかなくて結構です」

そう返すセラフィスを楽しむようにくすりと笑う。

以前はそんなジルファールに神経を逆なでされることも多かったが、いつしか受け流すまでになっていた。

「とにかく、仕事をなさってください。本日冥府に入る魂のリストです」

的確に処理されたであろう分厚い束が目の前に置かれる。

「わかった、私の負けだ」

ジルファールが折れた。セラフィスは最近このパターンが多いことに気づく。

「どこか、悪いのですか?」

「いや」

そっけなく返し、目の前の束を抱えるとその場を去った。

ジルファールが倒れたとの知らせが冥府を回ったは、それから間もなくのことだった。




次期統治者選びは、現統治者の一任で決まる。それに不満があろうと、決定は絶対だった。

だが、今回は大方がセラフィスだろうと予測し反対を唱える者もいなかった。

変わらずに時だけが過ぎてゆく。

「こちらが、本日のご報告です」

「お前も変わらないな。ここまで持ってくることもなかろうに」

「知っておいていただかなくては、後で困りますからね。
 楽になった時でいいので目はとうしておいてください。
 他にいるものがあれば、用意いたしますが」

「わかってて、言ってるだろう」

セラフィスが一瞬止まる。

「知らない顔して、気づいていなように振舞って。そんなことしてたら
 お前のほうが先にまいるぞ。だから、、もういい」

「閣下、、、」

翼ある者の終焉の兆し。気づかないはずはなかった。
だが、あまりにも急だった。

今のジルファールは
風が吹けばそのまま消えてしまいそうなほどに存在感がない。

目の前にいるのに影でもみているような錯覚をおこす。

「ひとつ頼みたいことがある」

「はい、何なりと」

「次の統治をお前に任せたい」

「、、、、、」

いつか切り出されるとは思っていた。しかし、それをあえて打ち消していた。

禁忌を犯し、翼を失った者がその地位につけるはずがない。

それは、当然の判断だった。

「私にその資格はありません。
 閣下がいいと仰ってくださっても他の方々が認めるはずがない。
 無理をとうせば、この冥府を混乱させるだけです」

「回りの意見や私への義理立てなどどうでもいい。
 知りたいのは、お前自身の気持ちだけだ」

「、、、、、少し時間をください」

「ああ、すぐに答えがだせるものじゃないだろうな」

(閣下の先代は、どのような方だったのだろう)
ふと、そんな思いがよぎる。

「どうした?」

「いえ、ひとまず失礼します」

セラフィスが部屋を出るのと入れ違いにイリアーナが入る。

「セラフィス、相変わらずみたいね」

「変わらないよ。、、、似てくるな、あの方と」

「そうね、、」

ジルファールの先代。どこまでも真っ直ぐにこの冥府を愛していた。

頑なともいえるほど。

「次の統治者、セラフィスだといいわね」

「そうなることを願うよ」

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