「どういうことだ、、、」

奥の部屋。それは、あの骸骨がいる部屋をさす。ここは天界への出立を許されず、ただ散りゆくことが決定した魂が眠る場所。

この場所を知り立ち入ることができるのは、統治者であるジルファールと花嫁であるイリアーナだけのはずだった。

だが、目の前にはリリスが倒れていた。

「リリス、どうした」

抱き起こそうと差し出したジルファールの手を、ものすごい力でリリスが掴んだ。

「リリスじゃないな、、。誰だ」

「ライラ。この名前を知っていて?」

「、、、ああ、知ってる」

かつてセラフィスが転生を止めた魂。

だが、散ったはずの魂が冥府に舞い戻るなど考えられないことだった。

「お前は散ったはずだと聞いたが」

「それがどういう訳か戻ってこれたのよね。
 天界も、気配が消えたらそれ以上は追いかけてこないみたいだし」

「目的は何だ。復讐のつもりか」

「そうね、この器を借りて冥府に住まわせてもらおうかしら」

「断る」

「、、、どうしてよ。リリスのことは認めたくせに」

ライラは掴んだ手に更に力を込めた。

「くっ、、、天界の決定を覆せるのは、天界の統治者だけだ」

「あなたがそんなに義理堅いとは思えないけど、まあいいわ」

ようやくライラが手を離す。

「会うか?」

「もちろん」

(やっかいなことになったな)




「これでひと段落かしら」

「はい、ありがとうございました」

イリアーナがここまで実務をこなせることは、セラフィスにとって驚きだった。普段統治に関わる場面を見ないから尚更なのだろう。

「ふう、、」

イリアーナが一息ついた。もうお休みください、そう言おうとした時だった。

「入るぞ」

ジルファールだった。そして傍らには、、

「リリス、よかった。無事だったんですね」

手を差し出すセラフィスにクスリと笑いかける。

だが、その笑顔にはリリスではない面影があった。

「そんな、まさか」

「私のこと、覚えていてくれた?」

「ライラ、、、」

忘れるはずもない。忘れたくても忘れられない名前。

あの時の記憶が一瞬でよみがえる。

「ジル、どういうことなの」

「理由はわからんが、冥府に舞い戻っていたんだ。
 そしてお前はリリスを呼び出し、あの部屋で器を奪った。そういうことだろう」

「リリスは、リリスの魂はどうなったんですか」

「眠ってるわ。そうね、あなたなら」

ライラはジルファールに視線を送る。

「あなたなら私を追い出せるかもしれないけど、リリスの魂の保障はないわよ」

「わかっている」

「2人だけにしていただけますか」

「イリアーナ、行くぞ」

「ええ、、」

セラフィスとライラだけが残った。

「やっと、会えた」

嬉しそうに笑うライラを、セラフィスは哀しげに見つめた。そう、ただそれだけなのだろう。

それだけにいたたまれなくなる。そして全ては己が始めたことなのだ。

「申し訳ありません」

「セラフィス?」

「私のせいで、あなたまで苦しめていたんですね。あなたになら私を裁く権利がありますし、どのような責めでも受けます。ですがリリスの魂だけは」 

「やめて!」

「ライラ、、」

「そんな、そんな言葉を聞きたいんじゃないわ。あたしはただ」

「ライラ!」

ライラは部屋を飛び出した。そのまま戻る気になれず部屋の外にいたイリアーナの脇を走り抜ける。

その後を追ってきたセラフィスをイリアーナは止めた。

「イリアーナ様、行かせてください」

「今のライラには誰の言葉も届かないわ。少し時間をあげましょう」

「ライラ、、、」

「そして考えるの、2人とも助ける方法を。このままじゃ哀しすぎるわよ」

誰が悪いわけじゃない。ただそれぞれの思いがいき違ってしまっただけ。どうにもできないやりきれなさを、イリアーナは感じていた。



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