訪問者(T)


並行して同時に存在する2つの世界。

一方には背に翼を宿す命が存在し、もう一方には翼を持たぬ命が存在する。

それぞれに息づく地で、日々の営みは続いていた。

「いらっしゃいませ。、、、珍しいですね」

静かに扉を開けた相手にランスは呟いてた。

「変わりありませんか」

「ええ、僕のほうは。塔を出たのは久しぶりではありませんか」

「そうかもしれません」

シャルミラはわずかに微笑んだ。

キエヌに隣接する森にある塔。

シャルミラはそこに住む白の双翼。

真実を知る者はごく僅かで、ランスはそのうちの1人。

「ところで、ウインドウにかけられている写真は誰?」

「ご安心を。本当に翼を持っているわけじゃありません」

つい先日架け替えたばかりのそれは、純白の翼を背負ったガレリアだった。

店の中から様子を見ているが
写真の前で足を止める人の多さに少なからず驚いている。

元々白い髪と肌のうえ、白いドレスに純白の翼。

このモデルが現実に存在するというと大抵は驚く。

「ソレアに住んでいるガレリアという人です。もともとこの髪と肌ですよ」

「そう、、、。見ていたら聖蓮を思い出しました」

「あの子も白い髪と白い肌でしたか」

「ソレアを出て、どうしているのだろう。
 紗那も後を追ったそうだから、今頃は一緒にいるのだろうけれど」

聖蓮と紗那。

紗那は形にならない想いを見ることができ、聖蓮はその想いを導くことが出来る。

そんな子供たちだった。

シャルミラも気にかけていたが、今はこの世界<泡沫>を出てしまっている。

それが2人にとって、いい結果になっていることを願うだけだった。

「座ってください」

お茶の準備を始めようとしたところで、店の扉が開いた。

「君は、たしか’銀月’の」

来た客には見覚えがあった。画廊’銀月’の店番と接客をしている少年。

「愁馬っていいます。訊きたいことがあって」

愁馬はランスを見上げた。

「僕でわかることなら」

「ウインドウにかかってる写真の人、ガレリアさんですよね」

「、、、確かに名前はガレリア」

「どこにいるのか教えてください。ずっと探してたんだ」

「理由もなしに、他人の居場所を教えることは出来ないよ」

そっけなく返され、それ以上訊くこともできずに愁馬は黙ってしまった。

シャルミラには、ランスに悪気のないことはわかっているけれど
もう少し丁寧でもいいだろうと思う。

「ランス、もう少し相手のことも考えてあげなさい」

「これが性分ですから」

「困った人だ」

だがそう言いながらも、ランスを見る眼差しは優しかった。

「愁馬でしたね。ガレリアとは知り合いですか?」

「昔、近くに住んでたんです。よく遊んでくれた。
 だけど、何も言わないでいなくなったんだ。
 どこにいるのか、どうしていなくなったのかずっと知りたかった。
 お願い、教えて」

「そいうことなら教えてあげてもいいのでは」

「わかりました」

愁馬はともかく、シャルミラに口添えされてまで断る理由はない。

ランスは住所を書き出して愁馬に渡した。

「僕が聞いたのはここ。ソレアにいるよ」

「えと、、、」

愁馬はシャルミラを見上げた。

「私はシャルミラといいます」

「ありがとうございました」

礼儀正しいお辞儀をして、愁馬は店を出て行った。

「会えると良いですね」

「知らないほうがいいこともありますよ」

「ランス?」

「今の彼は、きっとあの子が知っていた頃とは違いすぎる」

「けれどその違いを乗り越えることができるかもしれません。
 当人にその気があれば」

ふわりと笑う。

「さて、私もこれで。それでは」

音を立てずにシャルミラも店を後にした。

「先のことはわからないか。わからないから、期待も諦めもしない」

店の扉が開いた。

「(そして次の客がくる)いらっしゃいませ」

変わらずに、時間は流れていった。



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