継承式以降、双子が顔を合わせることはなかった。ロイも影を潜めたまま日々は過ぎた。

1日の終わりにフィリオスの元に届く、報告と決済の山。その中の一つにフィリオスの手が止まる。

「どうかなさいましたか」

「最近、この手の報告が増えたと思わないか」

フィリオスが差し出したそれを受け取り、ラスデルは追った。街の警護を請け負う衛兵からの報告。

それによれば、ここ何日かで小競り合いが増えたとのことだった。

喧嘩、窃盗、器物損壊。凶悪事件に発展はしていないが、とにかく数が多い。

総出で街を駆け回っているという。

「軍の余力を回せるか?」

「配置を見直してみます。明日の夜までには何とか。
 けれど、急にどうしたのでしょう。、、、まさか、これもあのロイという者が」

「可能性はあるな。まだ何もわからないのか?」

「申し訳ありません。その名前が残っていないか探してはいますが、まだ何も」

「、、、そうか」

開いている窓から、夜の冷たい風が流れ込む。

「あのときの傷は、、、どうなったんだろうな」

あの日から顔をあわせてはいない。ルナティエと会っても話題にでなかった。

気にはなるが、自分からはどうしても切り出せなかった。

「、、、これは、、」

「陛下?」

風に乗って何かが流れた。

「な!?」

それはむき出しの敵意。ドン、と大地が揺れる。立っていられないほどに。

体制を立て直す暇もなかった。とりあえずの言霊を紡ぐ。小さくすることはできたが止められない。

「ラスデル、動けるか」

「はい、何とか」

「父上とネリエを頼む。会えた者には下手に動くなと伝えてくれ」

「陛下は?」

「精霊石を守る。あれを壊させるわけにはいかない。頼むぞ」

「はい」

フィリオスは王宮の最上階、ドーム形に突き出した場所に向かった。


そこには精霊石と呼ばれる石がある。精霊が宿る石。そして白と黒のバランスを映し出すとも。

だがそこは、精霊使いのみが許される神聖な場所であり
ネリエがまだ精霊を見ることが出来ないため、現時点ではフィリオスのみが可能だった。

意味合いからすればヴァリヌスもではあるが。再び揺れが大きくなる。

精霊石が見え始めたとき、ドームの天井を破って雷が落ちた。

だが、精霊石の前に立つ人物がそれをはじいた。同時に揺れが止まる。

「、、、、、」

「久しいな、白の精霊使い」

「、、、精霊王、、」

そう、目の前にいるのは国の最高位の神。

「ご降臨とは気づかず失礼いたしました」

「以前は、、そなたが初めて精霊を見たときか」

懐かしそうに微笑むが、すぐに表情を変えると精霊石に目を向ける。

「それにしても、王宮の精霊石を狙うとはな」

「精霊王にまでご降臨頂くなど、、
 力及ばずこのような事態を招いたこと申し訳ありません」

「何故会おうとしない」

何を言いたいのか、わからないはずがない。
それでも、フィリオスは言葉がでない。

「兄を差し置いて今の立場にいることの負い目か?」

「そうかも、、しれません」

「王族としてではなく、精霊使いとして向き合えば対等ではないのか?」

「精霊使い、、、」

フィリオスの表情が沈む。

「、、、どれだけの意味があるのでしょう。今も、、迷うのです。
 ランドールが今の立場にいるのは、この能力があってこその部分が大きい。
 それだけのことを、私が返せているのか」

「、、、そなた一人では不完全かもしれぬ。だからこそヴァリヌスがいるのだ」

「、、、兄上は、私を必要とはなさらないでしょう」

「光と闇は相反するもの。けれど、一方だけでは己の存在を知らせることは出来ない。
 互いの存在があって、己を知ることが出来るのだ。そなたたちも同じこと。
 相反する属性ではあっても、互いを信じて補い合うことでよりよい結果を得ることが出来る」

「、、、、、」

「どちらにしろ今のままには出来まい。精霊たちも落ち着かぬしな。そなた一人で片をつけられる問題か?」

「、、、いいえ。抑えているだけでは限界がきます」

「ならば、神殿にそなたが出向くと伝えてよいな」

「、、、はい」

フィリオスから迷いが消え、その表情に安心したかのように微笑むと、精霊王の姿も消えた。

「ありがとうございます、、精霊王」


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