「さて、どうでるか」

この屋敷に運び込まれて3日目。傷も治り明日出て行くことを告げた。

森で怪我をしてここに運び込まれたのは偶然だったのか。

今となってはそれも疑問に思う。

あの2人に会って、この森が還らずの森と呼ばれる理由におぼろげだが思い当たった。まさかとはおもったが。

見つめた空では、月がその細い姿を光らせていた。


真夜中。音もなく扉が開いた。

ライゼルが部屋に入る。

ベットに近づくと眠っているように見えるフォレスを見下ろした。

「ごめんなさい、、、もう、終わりにしたい、、だけど、、」

ライゼルは手にある剣を構えた。瞳を閉じると両手で振り下ろす。が

「え、、、」

裂けた布の下にあったのは人型に積まれたクッションやピロー。

ふわりと羽が舞う。

「やっぱりそういうことか」

「!?」

暗がりからフォレスの声がした。月明かりの中、ゆっくりと進み出る。

「あ、、、どうして、、」

「この森が還らずの森と呼ばれていたのを思い出してね。まさかとは思ったが」

フォレスが進みライゼルが下がる。

向きを変え逃げようとしたライゼルをフォレスは捕らえた。

「い、、嫌だっ!離して!」

「殺そうとしておいてよく言うな。
 このまま街に連れ帰って皆の前に放り出しても文句は言えないだろう」

「、、、お願い、、離して、、くだ、、さ、、」

「理由は何なんだ。目的は?」

「私から話そう。離してやってくれないか」

「兄、、さん、、」

同じように音もなく入ってくる。夜の闇の中、その瞳の赤だけが光っていた。

「、、、そのほうが良さそうだな」

ライゼルは腕の中で震えていた。その身体を離しセレスティアに目を向ける。

セレスティアはライゼルを呼び寄せ、その腹に拳を叩き付けた。

「に、、い、、、さ、、」

気を失ったライゼルを抱きかかえソファーへと移すとフォレスと向き合う。

そして、静かに話し始めた。

「確かに、この森で行方知れずになった若者たちを殺めたのは私たちだ」

「理由は」

「私たちはいくつに見える?」

そう訊かれたがフォレスは答えなかった。

「この姿では答えようもないか。人ではある。だが人の何倍もの時間を生きてきた。
 全ては祖先が交わした契約によって。
 ある程度の年齢になって外見が変わらなくなったとき初めて知った。
 生贄と引き換えに命を永らえてきたことを」

「終わらせようとは思わなかったのか」

「その方法がわからなかった。己の意思とは関係なく、あれは生贄を求め
 私たちは差し出してきた。操られているかのように」

「あれっていうのは、あの女のことか」

「ああ。ずっと、苦しんできた。ライゼルは特に。
 だが私たちは自分の命すら自由には出来なかった。この契約がある限り」

ドッ 屋敷が揺れた。

「来たか、、、頼みたいことがある。ライゼルを連れて行ってくれ」

「お前はどうするんだ」

「契約を終わらせる」

「出来るのか?」

「私の命と引き換えに。その方法をやっと見つけたからな」

ガタッ ドン

「行ってくれ。そしてライゼルを生かしてほしい。長くはもたないだろう。
 だが、わずかでも外の世界で生きて欲しいんだ」

揺れが大きくなる。

「いいのか?このまま言葉もなくて」

「目覚めていれば自分も残ると言うだろうからな。このままでいい」

「、、、わかった」

フォレスはライゼルを抱きかかえた。セレスティアはライゼルの瞼に口付けを落とす。

「頼む」

壁に亀裂が走る。

「行け。時間がない」

「世話になった礼がまだだったな。ありがとう」

セレスティアの口元に笑みが浮かんだ。

それを見届けフォレスは屋敷を飛び出した。

「行かせるものですか!」

少女が姿を現し追おうとする。セレスティアが低く唱えた。

その言葉が少女の動きを止めた。

「そんな、、どうしてそれを」

「長い間探し続けた。そしてやっと見つけたんだよ。
 隠し部屋の奥に封じられたこれを」

セレスティアが見せたのは祖先が交わした契約の証。

唱えた言葉はその動きを封じるもの。

「クッ、、、」

燭台が倒れ炎が床をはう。セレスティアの詠唱が続く。

「止めて!」

セレスティアは少女を抱きしめた。

「何を」

「契約の終了はお前の解放にもなるんじゃないのか」

「、、、、、」

「お前が何者なのかそれもわかった。一番最初に生贄になった魂。
 契約の証として、ずっとここに縛られていたんだろう」

「あなたに何がわかるっていうの」

「わかるなどと無責任なことは言わん。
 だが、終わらせたいと望んだことはなかったか?」

「それは、、」

「独りでは行かせない。私も一緒だ。だから、逝こう。エルザ」

セレスティアの最後の言葉と同時に屋敷は炎に包まれた。

ここに、契約は終了した。


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