


「ん、、、、」
「気がついたか」
「、、、フォレスさん、、?」
ライゼルは自分が外にいることに気がついた。
振り向いて見えたのは炎に包まれた屋敷。
「兄さん!」
「駄目だ!行くな」
駆け戻ろうとしたライゼルをフォレスは押し留めた。
「離して!行かせて!」
フォレスは無言のまま首を横に振る。
「どうして、、こんな、、、」
「生きてほしいと、そう言っていた。自分がどうなろうと君を解放したいと。
それだけ君が大切で、愛していたんだ」
ライゼルの全身から力が抜ける。
「もう誰もいない、、僕は、、」
長い時を闇の中で生きてきた。
それでも生きてこれたのはセレスティアが共にいたから。
言いようの無い孤独が押し寄せたとき、フォレスの手が目の前にあった。
「一緒に来るか?」
「え、、、、」
顔を上げたが、すぐに視線を外す。
「聞いたでしょう?僕たちが何をしてきたか。それを知ってて」
「弟思いのいい兄さんじゃないか」
「フォレスさん、、、」
「君さえよければ。独りは辛いだろう。
君が見たことがない景色を見せてやりたい。彼の分もね。
冬が終われば一番美しい季節がやってくるんだ。
彼が、君に見せたかった景色だよ」
「、、、ありがとう、、」
冬の冷たい風が吹く。それから守るように、フォレスはライゼルを包んだ。
「、、、泣けるかい」
「、、、、」
「泣けるなら泣いたほうがいい。でないと、後から辛くなるだけだ」
「、、、兄さん、、う、、うわぁっっっ!」
その声は夜の闇に吸い込まれていった。
それから、フォレスとライゼルは一緒に暮らし始めた。
ライゼルの瞳と髪は良くも悪くも目立ったが、フォレスが庇い続けたこともあって悪くいう者も減っていった。
打ち解けてしまえば人当たりの評判はよかった。
外を歩けばフォレスの知り合いが気さくに声をかけてくる。
そして買い物にでれば、土産だおまけだと貰い物が山になり
それを抱えてようやく家へと戻るのだった。
「まったく、少しかんがえりゃいいのに」
「でも、いい人たちですね。フォレスの知り合いって」
「そうか?悪友もいるけどな。さて、これをどうするか」
「食べ切れますか?」
2人は本来の買い物よりも多くなったそれを見つめる。
「まあ、ライゼルが貰った物がほとんどなんだし、頑張って食べるんだな」
「え、、でも、これは、、」
何日あれば終わるのか、ライゼルは真剣に考え始めた。
「本気で取るなよ。作り置きが出来るものはそうするし、分けたっていいんだから」
「う〜っ、からかわないでよ」
「そのつもりはないが、気を悪くしたんなら謝る。すまなかった」
「え、、そうじゃないけど、、」
素直に謝られ、ライゼルのほうが困った顔になる。
そんなライゼルを見てフォレスは優しく笑った。
「表情がでてきたな」
「、、、、?」
「泣いたり、笑ったり、怒ったり。
森の屋敷で見たときは陶器で出来た人形みたいだったけど、今のほうがずっといい」
「フォレスのおかげです」
フォレスとのやりとりは、とても心地よいものだった。
生きるとはこういうことなのかもしれないと、今がそうなのだと、ライゼルは思う。
「私は何もしてないよ。とりあえず、目の前にある問題を解決しないとな。
けっこう難問だぞ」
「えっと、、これをどうするか?」
「いや、夕飯をなんにするか」
「、、、、それが、ですか?」
「そうは思わないか?」
子供のように笑う。つられてライゼルも笑っていた。
続けばいいと、ライゼルは願った。いつまでかはわからないけれど、この場所にいることが許される限り。
陽だまりのようなこの場所に。
そして二度目の春がやってくる。開け放した窓の外では、優しい穏やかな光が降り注いでいた。
その光を穏やかな気持ちでライゼルは見つめる。
外に出ることはなくなっていた。近頃はベットから出ることもまれ。
それでも長くもったほうだと思う。
そしてこんな気持ちで最後を迎えるなど、あの頃は想像も出来なかった。
窓の外をフォレスが通る。扉を開ける音が聞こえ、フォレスが戻った。
「お帰りなさい。どうでした」
「契約が取れたよ。始めるのは待ってもらったけど」
ライゼルと暮らし始めてから商売を抑えていたこともあって
フォレスが貿易商人であることを知ったのは最近だった。
「そっちはどうだい」
「僕のほうは特に何も」
「ん、ならいいけど。これ、みやげ物だ」
そう言ってフォレスが差し出したのは赤を溶かしたネックレス。
「貿易船が持ち帰った原石を加工してもらったんだ。綺麗だろう」
「ええ、、でも、これ」
ライゼルは別の意味で目が離せなかった。セレスティアの瞳そのままの色。
「わざわざ、僕に?」
「一緒に暮らし始めて一年目の記念かな。受け取ってもらえるか」
「ありがとう。あの、ここに座ってもらってもいいですか」
ライゼルは身体を動かし、場所を空ける。
「どうした」
ためらいがちに、座ったフォレスに身体を預けた。
「フォレスの腕の中は暖かい、、あの陽だまりのように優しくて」
「そんなにいいものじゃないだろう」
「僕にとってはそうです。、、、今までありがとうございました」
「ライゼル、、、」
それ以上は言わなかった。最後の瞬間に腕の中にいることを願う。
「少し、このまま眠っていいですか」
「ああ、お休み」
やがて春が夏へと変わるころライゼルの命は終わりを迎えた。
「これでよかったと、思ってくれるかい、、」
変わり始めた日差しの中で、フォレスはライゼルの笑顔を思い出していた。