覚醒
「あなたの周りに響く風が、穏やかであるように。風が響くで”風響”と呼びましょう」
「風響、、、、」
「あなたの名前です」
「お前は誰だ」
「私の名前は”凪”」
「、、、、凪」
「ん?、、、呼んだか?」
凪を見ていたのは、同僚のフィエラだった。
「どうしたの。最近多いね、心ここにあらず」
キエヌの家具工房”ローゼンタ”。キエヌでは高級家具の代名詞にもなる工房だった。
丁寧で繊細、豪華であっても品のよさを失わない品はその評価を落としたことが無い。
呼んだほうのフィエラは絵付けを、凪は彫り物を中心とする職人である。
「刀使ってるんだから危ないよ。親方だって気にしてる」
「、、、夢が少し気になってるんだ」
「、、、悪い夢?」
「悪くはない。だけど、同じ相手が夢に出てくる。私は、その相手に名前をつけてた。
その前後はあまり覚えてないんだが、その一瞬だけは何故か鮮明でね」
夢の中で、凪は名付け親になっていた。”風が響く”で”風響”と。
その風響は、不安そうに同時に警戒しながら凪を見返す。その瞳がどうにも凪の心に残った。
だが、それを工房の中に持ち込んでしまうようでは職人失格。それなりに、プライドもある。
「ここに持ち込むなんて、情けないな。大丈夫だ」
「そう、、、でも、疲れてるなら無理しないでよ」
「ありがとう」
フィエラに礼を返して、凪は仕事に戻った。
その夜。
「また今夜もかな」
同じ夢をみるのだろうか。あの風響は、どこかに実在するのだろうか。夢の中だけなのか。
瞳を思い出しながら、凪は眠りについた。
「ここって、、、」
夢の中で目覚めた凪は、町を見渡せる丘にいた。眼下に広がる町。そして、高く聳え立つ塔。見慣れた風景だ。
「夢、、、のはずだ」
夢にしては、感覚がはっきりしすぎている。と、足音がした。
「、、、、」
振り返った凪は言葉にならない。
居たのは、自分と同じ顔をした相手。流れるような服をまとい、背に純白の翼を持った。
「私も、凪といいます。私は、あなたがキエヌで命を得る前の、あなたの姿」
その言葉をどうにか整理してみる。
「、、、、つまり、前世」
「そう思ってもらえば、早いですね」
「、、、何をしようと」
「知ってもらいたくて、夢の中をお借りしました。キエヌで生きる翼有る者たちのことを。
勿論、今生きている”凪”を否定するつもりはありません。何かをしろというのでもない。
ただ、知って欲しいだけです」
夢の中。だから、従う気になったのかもしれない。そうしなければ、夢が覚めることもなさそうだ。
「、、、わかった」
「ありがとうございます。では、こちらへ」
後についてゆき、出たのは森の中の湖だった。
「この湖が、2つの世界を繋ぐ門。白い翼を持つ者、黒い翼を持つ者が住む世界。
ですが、キエヌに住む人々がここを通過することは出来ません」
凪は湖を覗き込んだ。と、水面がざわめき、水の向こうに町が見える。
「、、、、、嘘だろう」
「あなたは、湖の向こうに住む住人だった。その時の姿が私です。
そして、翼有るものとして生きていたとき、”風響”と出会いました」
「風が響く、、、、、」
「ええ。向こう側へ来ていただけますか」
凪は頷いた。
「私の手を取って、瞳を閉じてください」