覚醒


「どうぞ。目を開けて」

瞳を開けて見えたのは、あまり変わりのない風景だった。

「同じ翼を持つ、同じ世界の住人でありながら、白と黒は争いを繰り返してきました。
 その争いを、ようやく停戦までこぎつけたものの感情が追いつかず、存在を認めようとはしなかった。
 白の翼、黒の翼で住む場所をわけました。そんな中で、白の住む場所で目覚めた黒い翼が風響なんです。
 でも、色の違いだけで疎まれ、誰からも相手にされなかった。名前をつけてくれる相手すらもいなかった。
 もうすぐ、ここに来ますよ」

凪は、”翼を持つ凪”の言葉を追いかけるのがやっとだった。ようやく、話を繋げたところで夢に見ていたあの光景が始まった。

”あなたの周りに響く風が、穏やかであるように。風が響くで”風響”と呼びましょう”

何度も繰り返された言葉。不安そうに警戒する瞳。

「、、、けれど、”凪”は風響の傍にはいられなかった。白に目覚めた黒を庇う。それ自体が罪だったから」

「、、、、どうなったんだ」

「もう少し、この世界を知ってください。”凪”が知りうる範囲でしかありませんが」

2人の凪が見た世界。それは、翼の色が絶対的な意味を持つ世界。

そして、その頑なな価値観から多くの悲劇を生み出す世界だった。

”翼を持った凪”は、風響に何も伝えられぬまま囚人となり、牢獄で生を終え、キエヌで人として目覚めたという。

世界を回った2人の凪は、湖を抜け丘へと戻った。

「風響は、私を恨んでいるでしょうね。何も言えずに、別れたまま。あれからどうなったのか」

”翼を持った凪”が悲しそうに呟いた。

「どう考えたって、悪いのは回りだろう。翼の色だけで、当の本人なんか何も見ようとしないなんて」

「世界が違えば、常識も変わってしまいます。、、、そう思ってもらえただけでも、よかった」

「、、、夢から覚めても、今見てきたことは覚えているんだよな」

「はい。でも、、、どうしても嫌ならば、そうならないようには」

「別に、覚えてるだけならいい。何かをしろっていうわけじゃないなら」

「、、、、ありがとうございます」

自分と同じ顔をした相手が優しく微笑む。と、景色が揺れた。

「夢から覚めるようですね。これが最初で最後です。本当にありがとう」

何かを言うおうとした。だが、それよりも夢が覚めるほうが先だった。揺れた景色は光に飲み込まれていった。


夢から覚めた凪は、森の湖へ向かった。夢の通りの道を辿りながら。

すると、湖の傍らに白い双翼がいた。

「あなたが、凪ですね。私はシャルミラ。このキエヌに住む、翼を持つ者です」

「、、、、夢の中で見た景色は、夢じゃないってことだな」

これで、湖がただの湖なら、シャルミラがいなければ、いずれ忘れる夢でしかないのだろう。

だが、夢から覚めたはずの今、翼を持つ者が目の前に居る。

「、、、わかった。信じる」

「もし、望むのなら、今の有翼の世界をお見せすることもできます。
 翼有る者としての生を終え、人として目覚めた命。 本来なら、有翼の頃のことは蘇らないはず。
 この計らいが、どのような意味を成すのかは、まだ不明ですが、少しでも気が晴れるのであれば
 出来ることはいたします。わだかまりを残して欲しくはありません」

今の有翼。気にならなくはない。少しはましになったのだろうか。

だが、凪は首を横に振った。今の”凪”はこのキエヌで生きている、翼を持たぬ人。

「いや、見てきたことを覚えているだけでいい。今の私は、人だ。
 キエヌの家具職人、それが私だから」

「、、、わかりました」

凪の答えをどう取ったのか、シャルミラは微笑んでいた。

「失礼」

町へ、今の自分が住む場所へ歩き出した凪を、シャルミラは微笑みのまま見送っていた。

このキエヌで、翼を持つ者として生きている風響。会う可能性は充分ある。

だが、乗り越えられる強さを、シャルミラは信じるのだった。


 己の内に眠るもう1人

 深く眠り辿り着く深遠

 だが いくら目覚めようとも過去ならば


 真実は

 今生きている場所での己のみ

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