回顧録
絡瑛、銀月、由衣の昔話です。
テキストのみで写真はありません。
美しい月の輝く夜。その影は現れるという。古美術品を専門に狙う怪盗。
銀色の光を受けてなびく髪をした怪盗を、人々はいつしかこう呼んだ。”銀月”と。
「また今日も現れるのかな」
雲のない夜の空に月が浮かぶ。その銀色の光をみつめて絡瑛は呟いた。町はいつでも”怪盗銀月”の噂で賑やかだった。
その正体を知る者はいないが、噂だけが広まり美しい青年とも、はたまた女怪盗とも言う人もいる。
殺生はしない鮮やかな手口から怪盗紳士とも称された。
「ん?今の」
不意に廊下から不規則な足音が聞こえた。その相手が誰なのか、すぐに察しはついた。
出てみれば、思ったとおり兄の瑞樹が少し離れた部屋の前で座り込んでいる。
「兄さん、大丈夫ですか?」
「、、、絡瑛、、」
かなりのアルコールが入っていることはすぐにわかった。立ち上がりふらついた瑞樹に手を出すが、瑞樹はその手を払う。
「お前の手を借りることじゃない」
「兄さん、あまり飲みすぎないでください。ここしばらく毎日でしょう。父さんだって心配してます」
「心配だって?」
「ええ、わたくしだって、なに」
瑞樹は力任せに絡瑛を壁に叩きつける。打った肩がしびれた。
「あいつが心配するのはお前だけだろう。そうさ、お前とお前の母親だけだよ」
「わたくしにとっては大切な家族です。今までだって、これからだってそうありたいだけ、、う、、」
「お前が全て奪い取っていく。父も、この家も、私の回りにあるもの全て。いっそ殺したらどうなんだ」
「、、、そんなに、わたくしが憎いですか?」
「、、、、、ふん」
掴んでいた絡瑛の腕を放し、瑞樹は部屋へと入る。絡瑛も自室へと引き上げた。
部屋を見渡し、サイドボードの写真に眼を留める。まだ幼い頃に瑞樹と並んで撮った写真は確かに笑っているのに。
「、、、もう笑えないの?あの頃のようには」
瑞樹と絡瑛は親の違う兄弟だった。瑞樹の母とは、見合いだったと聞く。
それなりに名のある名門の当主が独り身では体裁が悪いと、周囲が進めた結婚だった。
瑞樹が産まれ、それなりに愛しはしたが、瑞樹の母親が命を落として時間をおかずに絡瑛の母を家に迎えた。
絡瑛を連れて。来たばかりの頃、相手になってくれたのは瑞樹だけだった。
だがいつしか、瑞樹は家に寄り付かなくなり絡瑛から離れていった。そして父もそんな瑞樹を見なくなった。
「兄さん、、、あれ」
風が入ってくる。
「閉め忘れたか」
庭に続く窓が開け放したままになっていた。バルコニーにでたそのとき、いきなり腕を強く引かれ誰かの腕の中に収まる。
「は、離して!」
向きを変えすぐ目の前にある瞳を認識するより早く、唇が重なる。そして何かが流れ込んできた。
「う、、、ぐ、、(だ、、れ、、、)」
「眠るだけだ」
意識が抜ける直前、そんな声を聞いた気がした。
「、、、朝か、、あれは、、夢?」
ベットの上にいた。夕べのことを思い返してみる。
酔って帰った兄と会い、いつものようにもの別れで終わった。そしてバルコニーで誰かに、、
絡瑛は部屋を見る。するとテーブルの上に覚えのないものがあった。
ベットからでてみると、そこにあったのは小さな石。磨きこまれ、美しく輝いている。
そして、薔薇の移り香が残るカード。添えられたカードにはこう書かれていた。
− 一晩の宿を借りた礼に 銀月 −
「銀月って、、、まさか」
あの銀月だったというのか。顔を見る前に眠らされたから覚えてはいないが、覚えている感覚はあった。
本来なら、これは警察なりに渡すものだろう。だが、絡瑛は何故かその気になれなかった。