透明な糸(\)


「ス、、、レイス」

「ん、、、」

自分を呼ぶ声で目が覚めた。

「帰ってたのか」

「悲しい夢でもみてたの?」

「何でだ」

ガレリアはそっとレイスの涙をすくった。

レイス自身が気がつかなかった雫を。

「、、、、、」

「言いたくないことを無理に聞くつもりはないよ」

見た夢は遠い昔の風景。

ルディも知らない、鳥になる前の。

「ソレアに戻る前に寄りたいところがある。かまわないか」

「僕はいいけど。これから行く?明日?」

「明日、キエヌを発つ前でいい」

「わかった。、、、、ねえ、レイス」

「ん?」

「レイスは、鳥だった頃に主を恨んだ?」

「ガレリア?」

問いかけるガレリアは真っ直ぐにレイスを見た。

「、、、、お前が、それを私に訊くのか?」

「今の僕はレイスっていう大切な人がいて、自分が傍にいたいからここにいる。
 鳥も主も関係ない。だけど鳥と主のままで抱かれていたら、主としてのレイスを」

「待ってくれ。急に何を」

ガレリアが何を思って話し出したのか、見当がつかなかった。

ルディと何を話したというのだろう。

ガレリアから一番聞きたくない言葉を突きつけられる。

レイスを襲ったのはその不安と恐れ。

「ルディと何を話したっていうんだ。ああ、確かに主としての私はお前を傷つけた。
 それは事実だ。今はお前といたい。抱くだけの相手だと思ってなんかいない。
 他の誰かじゃなくお前だから」

「レイス」

「、、、、」

「主としてのレイスに、鳥としてけじめをつけたい」

「ガレリア、、、」

「一度姿を消す前に、鳥カゴの主として手紙をくれたよね」

「ああ、、、わかった」

ソファーを下りたレイスはガレリアの前で膝を折った。

「主として断罪を受けよう。お前の裁きならどんな咎でもいい。
 お前の望むまま、好きなようにしてくれ」

しんと静まり返った。

どんな罵声だろうと、傷の一つ二つ受ける覚悟でレイスは待った。

一瞬が長く感じられる。押しつぶされそうなほど、レイスには重い。

「ガレリア、裁いてくれ。頼む」

そう懇願するレイスを優しくガレリアは抱きしめた。

丘でルディにそうしたように。

「鳥として、あなたを許す」

「、、、、、」

「そして忘れないで。行方知れずの鳥と、その泣き声を」

「お前、、、」

「僕は主としてのレイスを許すよ。
 鳥だったころのレイスも、その以前のレイスも、今ここにいるレイスも同じ僕の大切な人だもの。
 代わりなんていない、ただ一人の存在だから」

レイスは返す言葉が見つからず、きつく抱き返した。

「レイス、、苦し、、」

「お前だけだ。離すなどしない」

「ん、、、」

その想いを映すように、空は鮮やかな茜色だった。


夜。

ガレリアを起こさないようそっとベッドを抜けて、ボトルを開けた。

「許す、、、か」

その言葉を求めていたつもりはない。

だが、ガレリアが与えた許しはレイスにとって真の解放となった。

鳥から主になったレイスは、ようやく鳥でも主でもなくなったのだ。

「ありがとう、ガレリア」

眠っているガレリアにそっと呟く。

レイスの表情は、優しく穏やかな微笑みだった。


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