

透明な糸(\)
眼下に広がるキエヌの町。いつもの、いい風が吹いていた。
「レイスから聞いたのでしょう。私の父がレイスの前の主だったこと、レイスが鳥だったことも」
「聞きました」
「昔はそれなりに反発もしましたよ。
父が愛した鳥を、この手で壊そうかと思ったこともある」
「ルディさん、、、、」
見える横顔も声音も、頬をかすめる風のように穏やかだった。
「あの人は、鳥カゴの主として生き、そして死んだ。
私をどう思っていたのか、聞くこともありませんでした。
あなたから見れば
私とレイスは恨みつらみがあって当然の相手でしょう」
「そんなこと」
「無いと、言い切れますか」
「、、、、、」
「父と私とレイス、昔のことを聞いたうえで、それでも
今と変わらずにいてくれるなら、そう願いたいけれど
変わったとしても、恨まれたとしても」
「ルディさん、待って」
「最後まで言わせてください」
「、、、、、」
「結局、私は父と同じことをしたんです。それは、あなたがよくわかってるでしょう。
だからこれだけは。ありがとう、ガレリア」
「ルディさん、、、」
町を眺めていたルディはガレリアに向き直った。
「あなたがレイスを変えてくれた。
あなたがいたから、レイスは鳥カゴを壊して父が繋いだ鎖を自分で切った。
そのことに感謝しています」
「、、、、」
「恨みばかりを受けて死んだ救いようの無いあんな男、、、、
他人ならいっそよかった。けれど、私の父であることは変えようが無い。
父である以上、父が持っていたものを受け継いだ私は償うべきなのかもしれない。
行方の知れない鳥たちに私は何をすればいいのか、時々思うんです」
「、、、ルディさんはルディさんです。
確かに、ルディさんもレイスも鳥から見れば恨んでもおかしくない相手かもしれない。
僕だって鳥のまま客を取らされて、夜を迎えてたらわからない」
「、、、、、」
「償いたいって、そう思ってるなら」
「方法があるのなら教えてください。お願いします」
ルディはガレリアの腕を掴んだ。
ルディが求めているのは許すという言葉なのだろうか。
鳥からの責めの言葉を自分自身で生み出して己にぶつける。
その責めが、ルディにとって贖罪だというのだろうか。
ガレリアはそっとルディを抱き返した。
「忘れないでください。あの鳥カゴがあった事実を。
泣いていた鳥たちのこと。僕たちの今は
行方知れずになった鳥達の犠牲があるってこと。
僕も忘れないから」
「ガレリア、、、、」
「みんな苦しかった。それぞれに。
大切な人が隣にいる今なら苦しくても大丈夫。
ルディさん、今を大切にして」
「、、、、、、」
ガレリアは初めてルディの泣く声を聞いた気がする。
「鳥としての僕は、レイスのこともルディさんも許すよ」
「、、、ありがとう」
その涙は背負った枷をゆっくりとほどいていった。
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それは冷え込む日の朝だった。戻ることも進むことも出来ず、立ち尽くす。 どうしてこんな不公平が生まれるのだろう。 大きな屋敷の中で温かい食事を当たり前に食べる人がいる。 その一方で、一切れのパンを分け合い生きる人がいる。 「くしゅん」 「今日は冷えるな」 一歩後ろを歩く弟に自分の上着をかけた。 「ありがとう。あ、、、」 「雪か」 空から舞い降りたのは白い花。 「兄さん、これ」 「いいよ。そのまま着てろ」 「早く春になるといいね」 「そうだな」 こんな屋敷にいる人間には春も冬も関係ない。 暖かい場所からこの白い花を眺め、綺麗だなどと言っている。 だが自分達にとっては辛く厳しい冬の魔物だ。2人、体を寄せて歩き出した。 |
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