透明な糸(W)


宿に戻ったレイスとガレリアは、どちらが言うでもなく肌を重ねた。

「レイス、、、教えて。きっと受け止めるから」

腕の中でガレリアは告げる。過去を知る覚悟が出来たと。

レイスは細い指で白糸をすくい口付けた。

「オルガはかごの鳥だった男だ」

「、、、昔の鳥」

キエヌに着いた日の夜に呟いた言葉が現実となった。

「前に、ルディがあの子を連れて来たろう」

「愁馬のことだよね」

「途中サルバスで偶然会ったと聞いた。
 サルバスで、オルガとアリエルの3人暮らしだそうだ。
 あのオルガに間違いないだろうな」

きゅっと、ガレリアの腕に力が入る。

自分を優しく包んでいるこの腕は、同じように他の鳥を抱いていた。

告白を受けたあの日、それでも一緒にいるこを望んだのは自分。

なのに、、、。ガレリアは己に対しての苛立ちを覚える。

「自分がこんなに我侭だとは思わなかった。
 僕だけじゃないことは、、、、
 抱かれたのは僕だけじゃないってわかってるのに」

「ああ、、、そうだ。抱きもしたし、抱かれもした」

ふと、ガレリアの頭に浮かんだ言葉。

「ルディさん、、も、、、あ」

口に出してしまったことを、ガレリアはすぐに後悔した。

そうだとしても、友人でいられる今を覆す必要はないはずだ。

だが、、レイスも聞き流すことができなかった。

そう、ルディは自分を買った男の息子。

今自分がいる場所にいたかもしれない相手。

「ルディは私を買った男の息子だ」

「え、、、」

ガレリアを見ないまま、レイスは続けた。

「私の前のカゴの主はルディの父親。
 ルディがあの家を出たのはいつだったかな。
 息子よりも、集まった鳥を愛した男だ。
 出て行きたくなるのも当然だろう。
 その父親が死んで、何のつもりか私にあのカゴを残した。
 次の主としてな」

「ルディさんが、、、そんな」

「どこからどう伝わったのか知らないが
 あの男が死んだことはルディにも伝わり、ルディは家に戻った。
 いや、、、顔を出してすぐにまた出るつもりだったろう。
 だが、ルディはそのまま残った。
 その時点でカゴを壊せばよかったのかもしれないが
 私は他の生き方を知らなかった。
 ルディがカゴを継いでいたら、、、、私とルディの立場は逆だったろう」

もしもルディが後を継いでいたら
隣にいたのはルディだったかもしれない。

鳥カゴの主としてルディと会っていたら。

同じ鳥としてレイスと会っていたら。

自分を抱いていたのは、、、、、

ガレリアはもしもを振り払った。

「ルディさんには感謝してる。助けられてるのもわかってる。
 僕だけじゃどうしようもなかったことだって、、、、、だけど」

「いいよ。ガレリア」

「でも、僕の隣いるのはレイス。この場所は僕だけのものだ」

「、、、、」

いつになく強い語気だった。

微熱を帯びた肌がほんのり染まる。

「、、、僕だけの、、レイス、、、」

互いの存在が己の存在する理由であり、証。言葉はいらなかった。


夜が深さを増していく。

うつらうつらとした夢と現の境でノックの音がした。二度、三度。

「う、、ん、、」

先に気がついたのはガレリア。

「誰か、、、来た」

服を掴もうと伸ばした手をレイスが引いた。

「この時間だ。構うな」

「、、、大丈夫かな」

しんと、音は聞こえなくなった。

だが、少しの間を置いてドンと鳴った。そして聞こえた声は

「開けてくれ!オルガだ!」

「オルガ、、、、」

「、、、、」

「向こうも捜し回ってこの宿にたどり着いたか。
 話だけしてくれる。黙って帰るつもりもないだろうからな」

ベッドを出て服を整えるレイスを、ガレリアは黙って見ていた。

(子供みたい、、、僕は。
 レイスは僕といてくれる。その現実があるのに。
 何だろう、、、もやみたいな、霧がかかったみたい、、、)

説明のできない感情がガレリアの中にあった。

レイスはうつむいたガレリアの顔を上げ口付ける。

「お前だけだ。人としての自由を与えようと思ったのは。
 鳥ではなく、、、、人として愛したのも」

「、、、、早く戻ってね」

「ああ」

レイスを見送ったガレリアは、頭までベットにもぐりこんだ。

何も見えない闇に包まれる。

「レイスだけ、、、僕にはレイスだけ」

唯一絶対のもの。

それだけ心を奪われる相手にめぐり会ったことは幸か不幸か。

喜びと失う恐怖が、知らず天秤に乗る。どこからか吹く風が、静かに天秤を揺らしていた。


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