透明な糸(W)


空いている部屋を整え、お茶の準備が終わったところで呼び鈴が鳴った。

アントワネットが扉を開けると、レイスとガレリアの間にフィータがいた。

アントワネットは3人を中に入れる。

「フィータ、この人がアントワネットさん」

「、、、、こんばんは」

言いながらぺこりとお辞儀をし
アントワネット、ガレリア、レイスを交互に見る。

アントワネットは優しく声をかけた。

「こんばんは。ゆっくり休んでね。
 あなたの捜している人もきっと見つかるわよ。大丈夫」

「うん、、、」

「フィータ、僕達はここまでだから」

「いなくなっちゃうの?」

「また明日来るよ。フィータの大好きな人、一緒に探そう」

「わかった。お休みなさい」

「アントワネットさん、お願いします」

「明日の朝にもう一度来る。それまで悪いが」

「そんなに心配しなくても大丈夫よ」

心が決まれば人は強くなれると、そんなことを感じさせる表情だった。

慈愛とは強さを備えた優しさかもしれない。

「また明日ね」

「はい。お休みなさい」

「ルディにもよろしく言っておいてくれ」

宿に戻る2人を見送り、アントワネットはフィータを家に入れた。


「あ、、、」

リビングにいたルディを見て、フィータは小さく声を上げた。

「私のこと、覚えていますか」

「うん、、、オルガのこと連れてきてくれた人でしょう。
えっと、、、ルディさん」

「キエヌで会うとは思いませんでしたね。座ってください」

言われたとおりソファーに座ったフィータにお茶を差し出す。

それを両手で抱え、ゆっくりと流し込んだ。

「、、、、アリエルとオルガ、いなくなっちゃった。
 フレデリックはお留守番だし、ケイオスはお仕事。
 アリエルとオルガも帰ったのかな」

アリエルとオルガがフィータを置いて姿を消すとは考えられない。

だが、街中ではぐれて迷子になったとも思えなかった。

フィータは寝巻きなのだから。

隣に座ったアントワネットは怯えさせないよう聞き出そうと試みる。

「キエヌに来たのはいつなの」

「、、、昨日かな」

「一緒にきたアリエルさんはお仕事なのよね。
 あなたとオルガさんはどこにいたの?市場でお買い物かしら」

「、、、大きい船見てきた。それから丘にも行った。
 公園でふわふわのお菓子も食べたよ。甘くておいしい」

「そのお話、アリエルさんにもしてあげた?」

「うん。アリエルにお話して、、、、」

その時の会話を思い浮かべる。

「アリエル、キエヌにいるって言ったんだ。
 キエヌにいればアリエルも喧嘩しない。
 よかったって思って、おやすみなさいって、、、、」

ルディはその後を考えてみる。

フィータを寝かしつけてアリエルとオルガは部屋を離れた。

そして、フィータは目を覚ました。

見える範囲に2人がいないとわかり
近くを捜すのではなくそのまま外に出た。

2人にしてみれば、そう長く空けるつもりではなかった。

フィータの状態を一番わかっている2人のはずだ。

向こうも必死でフィータを探しているだろうことは想像できる。

”自分がいたくて、ここにいる”

サルバスで会ったオルガの言葉を信じたかった。

「オルガはあなたたちと一緒にいることを望んでる。
 黙っていなくなったりなんてしません。
 どこかで行き違ってしまっただけですよ」

「朝になったらみんなで捜しましょう。今夜は休みなさい」

「、、、、うん」

アントワネットはフィータを連れてリビングを出た。

残ったルディはボトルの栓を抜いた。

オルガがレイスたちの宿に行き着けば、ガレリアにも会うことになるだろう。

ガレリアが自分とレイスの関係を知ったら、何かが変わるのだろうか。

昔は昔と、簡単に割り切れるほど感情は単純ではなかろう。

「ガレリア、あなたが思うほど私は善人でもありませんよ」

レイスと共に背負った過去は、夜の闇よりも深く重い。外を見れば、そんなことを思わせる宵だった。


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