
透明な糸(V)
(* キエヌに集ったかつてのカゴの鳥たち。ゆっくりと続く糸紡ぎの行方)
「それでね、丘に行った後は港に行ったんだ。大きい船がたくさんあった」
フィータの話は止まりそうに無かった。
丘から見下ろしたキエヌの町。港に集った船。
一日で見たもの、聞いたことをアリエルに楽しそうに話し続けている。
「ずいぶん回ったんだな。歩き通しだったろう」
「でも楽しかったよ。公園で甘いお菓子も食べた。ねえ、オルガ、あれ何だっけ?」
「綿菓子。公園に露店が出てたんだ」
丘での話は失念したのか、あの時のすがるような表情は見せない。
オルガは一方で安心し、一方で不安が残る。
「アリエル、明日もお仕事?」
「いや。向こうからの返答待ちだから2〜3日はキエヌだな」
「よかった」
「フィータ?」
フィータの言葉の意味がわからずにアリエルは聞き返した。
「ここにいれば、あの人来ないよね。アリエルも喧嘩しないよね」
「あの人って、、、フィータ、何かあったのか」
「、、、、、、」
「フィータ」
「アリエル、よせ」
黙ったフィータに勢いをつけそうなアリエルを、オルガが止めた。
「フィータ、大丈夫。俺もアリエルもお前といたい。
それだけは本当だから」
「うん、、、わかった」
「オルガ?」
「歩き回ったから疲れたろう。遅くならないうちに休めよ」
「お休みなさい、オルガ」
ぱたぱたとフィータは寝る支度を始めた。
気がつかれないよう、オルガはアリエルに寄る。
「寝かしつけたら俺のほうに来てくれ」
「わかった」
「じゃあな、フィータ」
「また明日ね」
部屋を出ていくオルガにフィータは笑いかけ、そのフィータをアリエルはグラス越しに見つめた。
やはり歩きつかれてはいたのだろう。フィータはすぐに眠ってしまった。
起こさないよう静かに部屋を出たアリエルはオルガの部屋に向かった。
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「いいか」 「開いてる。入ってくれ」 オルガは窓から外を眺めていた。 テーブルには半分以上空になったボトル。「ずいぶん飲んでるな」 「そんなに強い酒じゃない。軽く飲むか?」 「軽くな」 グラスを受け取り、透き通った青で満たす。 サルバスでは見たことの無い酒だ。「それでさっきのはどういう意味だ」 話を切り出したのはアリエル。 「昼間行った先でフィータがこう言った。 「、、、、、」 「フィータを病院に入れたほうがいいって話。 「ああ、、、こっちもうんざりしてたから 何度追い返しても同じ話を持ってくる。 同じ家で暮らすことは、自分と同じように だが、アリエルは揺れた。 「フィータを家に置いておきたいというのは、私の我侭なのかな」 「アリエル、、、、、」 「お前がこの先いつまでいられるかは分からない。 フィータにとっての最善が何なのか。オルガにも答えはない。 けれど、一緒にいたいとフィータが望んでいるのは確かなこと。 いられる間は叶えてやりたい。 「確かに俺がいつまでいられるかはわからない。 「、、、、、」 「だからいられる間は俺もいてやりたい。 「フィータが望んでいること、、、、か」 「いっそ引っ越すか」 「サルバスを出るっていうのか?」 「そこまでのことじゃないさ。 「それも方法かもな」 「きっと、、方法はある。フィータにあんなこと言わせない方法。 「オルガ、、、、」 |
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それからは何となくの雑談で時間が過ぎた。
オルガの部屋を出て廊下を歩いていたアリエルは、僅かに開いた部屋の扉に気がついた。
「フィータ、、、、?」
急いで部屋に戻りベッドに寄る。眠っているものとばかり思っていたフィータの姿が無い。
「そんな、、、何処へ」
今度はオルガの部屋へ引き返した。
「どうした、、、、、?」
「フィータがいない」
「何だって」
「目が覚めて、私がいないから外に、、、、」
「一回りしてくる。ここにいてくれ」
アリエルの姿が見えずに外に出たのは確か。おそらくは近くの宿を探し回っているのだろう。
「今夜中に見つかればいいけど、、朝になったら捜索願い出したほうがいいな」
「、、、、ここがサルバスだったらまだ」
勝手の分かるサルバスなら、ケイオスがいてくれればと思わずにはいられなかった。だがここはキエヌ。
「やれることをやるしかない。行ってくるよ」
「ああ、、頼む」
オルガは夜の街に出た。