

透明な糸(U)
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ソレアとサルバスから、それぞれがキエヌに到着した翌日。 「フィータ、これから仕事だからまた後で」 「どこまで行くの?」 「少し郊外だな。夕飯までには戻るつもりだ」 「画廊{銀月}のオーナーが相手じゃなかったのか?この通りだろう」 オルガは並ぶ店を眺めた。今回の目的は宿で使う家具の買い付け。 ”工房ローゼンタ”の品を扱っている 「店じゃなくて家のほうに呼ばれてる」 言いながらアリエルは家の住所を確かめた。 瑞樹から商談を家でやりたいという連絡と地図を送られている。 「そうか。気をつけて」 「行ってらっしゃい。お仕事頑張ってね」 「フィータ、オルガのいうことちゃんと聞くんだぞ」 「うん」 にこりと笑ったフィータに微笑んで、アリエルは瑞樹の家に向かった。 |
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「さて、こっちはどうするか」 行きたいところと訊いてもフィータには思いつかないだろう。 港か逆方向かと考えていたオルガの袖を、フィータがくいと引いた。 「オルガ、あれ何?」 フィータが見ていたのは町を見下ろすように建っている塔だった。 「ずっと前からあそこに建ってる。 「誰かのお家?」 「、、、、俺がキエヌにいた頃は いつからか、あの塔には翼を宿した者が住んでいるという噂があった。 今も、それは変わらないのだろうか。 「天使さま、、、ねえ、行けば天使さまに会えるの?行ってみようよ」 「本当にいるかはわからないよ。 丘を吹き抜ける風はあの頃と同じだろうか。 町を一望できるあの場所は、オルガにとっても心の休まる場所だった。 「きっと驚くぞ。行くか」 「うん」 2人はゆっくりと歩き出した。 |
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「すごい、、、町があんなに小さい」
「風は変わらないな」
目の前の風景は昔と変わらない。オルガは懐かしい風を吸い込んだ。
「アリエルどのへんにいるのかな。あれが教会かな」
フィータはお気に入りのおもちゃを見つけたようにご機嫌だった。
「フレデリックにも見せてあげたいね。サルバスの空も同じ色かな」
空を見上げ、そのまま草の上に体を伸ばす。
オルガもならい、2人揃って草のベッドに横なった。
青く澄んだ空だけが目の前に広がる。
だが、そんな穏やかな空気をフィータの言葉が一転させた。
「僕がいなくなっても、オルガはいてくれる?」
「フィータ?」
起き上がり隣のフィータを見る。
真っ直ぐ空を見上げた瞳のまま、淡々と続けた。
「僕、あの家にいないほうがいいと思うんだ。アリエルと別のところ」
「昨日のこと気にしてるのか?アリエルはお前と一緒に暮らしたいんだ。
だから、同居人を捜す広告をだしたんだろう」
「アリエル、僕のことでいつも誰かと喧嘩してる。あの人、、、」
「また来たのか」
何度も同じことで同じ相手とやりあっている。
それはオルガも耳に入っていた。
けれど、アリエルが望んでいるのは家族として暮らすこと。
アリエル自身が孤児院から引き取られているから尚更かもしれない。
そして多少の負い目もあるのだろう。
フィータではなく、自分が全て引き継いだことに。
「フィータ、アリエルはお前と暮らす方法を探してる。
フィータだって、アリエルとフレデリックと一緒にいたいだろう?」
「うん。オルガとも」
起き上がったフィータは迷子のようにオルガを見返した。
「なら、考えなくていい。誰が何を言ってきても、大切な家族だ。大丈夫」
「家族、、、」
「ああ、そうだよ」
それこそ他人同士だ。アリエルもフィータもオルガも。
それでも、同じ場所で共に暮らしている今が大切であたたかい。
それを伝えたくて、オルガは優しくフィータを抱き寄せた。