


透明な糸(]U)
「レイスたち、今日キエヌを出るって言ったわよね」
「ええ。今日だったと思いますよ」
アントワネットは2人へのお土産用にと焼いたケーキを包んでいた。
「これでいいかしら」
包み終えたそれを置き、一息つく。
そしてここ数日を思い返した。
「何だか、あっという間に過ぎた感じね」
鳥カゴの主と鳥達が、このキエヌに偶然集った。
再会はほんの僅かな時間だったが
それぞれに思いを巡らせたことだろう。
「いろいろとありがとう」
「言われるほどのことはしてないわよ」
笑顔を向けたアントワネットに、ルディも微笑んで小さく頷いた。
このささやかな幸せに、ただルディは感謝する。
そしてガレリアの言葉を思い出す。
かつての鳥達の犠牲があっての今なのだと。
「2人が顔を見せたらよろしく伝えてください。
それから、ガレリアにありがとうと」
「ええ。わかった」
ガレリアとルディの間に何かがあったのだろう。
けれど、その何かを聞くことはしなかった。
必要ならばルディから話してくれる。アントワネットに疑いはない。
「行ってらっしゃい」
「それじゃあ」
事務所へ向かうルディを見送り、ゆっくりと開店準備を始めた。
2人が顔を見せたのは昼を少し過ぎた頃。
アントワネットはお土産用とは別にしておいたケーキを切り分け、新しいお茶をいれた。
「ルディの顔を見にきてくれただけのはずが、思いもしなかったわね」
「あいつのこと、頼むよ」
「大丈夫よ。嫌いになれる自信無いもの」
当たり前というように、さらりと返った言葉。
信じられる強さは、そのまま優しさになるのかもしれない。
「ガレリア、あなたには伝言預かっているの。ありがとうって」
「ルディさん、、、、」
「何があったのかまでは聞かなかったけれど
きっとルディの助けになってくれたのね」
2人だけで丘で話したことだとすぐにわかった。
だが、アントワネットの存在に比べたら
とても及ぶものではない。
「僕よりも、アントワネットさんのほうがずっと」
「あら、自分一人でルディを支えてるなんて思わないわよ」
「そんなことないです」
「ガレリア」
思わず語気の強くなったガレリアに、アントワネットはそっと返した。
「あたしね、こう思うの。
どんな形であれ、人は関わった全ての相手に支えられているって。
同じように知らずのうちに誰かを支えてる。
だから人は、毎日多くの誰かとすれ違って、その中で縁が出来る出会いを見つけるんじゃないかって。
見つけようとしなくても、自分にとって必要な人とは出会うように出来てるのよ、きっと。
ルディはもちろんだけど、2人もあたしにとって必要な人。
だから一緒にお茶を飲んで、お喋りしてるんだと思う」
「アントワネットさん、、、、」
「また顔見せにきてね」
「もしも、、、鳥じゃなくて普通にお客として会ってたら
そしたら、アントワネットさんのこと好きになってたかな」
「あら、、、、」
「ガレリア?」
「強くて、優しくて。アントワネットさんが隣にいたら
自分も強くなれそうな気がする。
何があってもいてくれるって、信じられるもの」
飾ることをしない、心からの言葉だった。
ルディに対してと、ルディを思う自分に対しての信頼の強さ。
信じられていると思えれば、自分も強くなれる。
「また来ますね。 僕も、アントワネットさんとルディさんには
変わらないでいてもらいたいと思います」
「ありがとう」
「ガレリアに全部言われたな」
レイスも同じ気持ちだった。
「最高の戦友だ。これからも頼りにさせてもらうよ」
「ええ。お互いに」
店の呼び鈴が鳴った。
「あ、ごめんなさい、長くなっちゃって。それじゃあ、これで」
「いつでも来てね。気をつけて」