


白銀の名のもとに
イーリスはキエヌの丘へジャステアを連れてきた。
「それで、話というのは」
「先日、{嘆きの渓谷}を飛び出した想いのことです。あの時は手を出す前に散ったと申しましたが、実はここに」
「、、、、、」
ジャステアは玉を取り出し唱え始めた。すると
「、、イー、、リス、さま、、、」
声はイーリスを呼んだ。
「あの時、、、イーリス様が助けてくださった。イーリス様と引き換えに我々は」
「まさか、、、そんな」
負けとわかった最後の戦い。黒の軍に身を投じた時のことが瞬時に浮かんだ。
「あの場所は、かつての戦場なのです。眠れずにいる彼らをどうか」
「救えなかったの?私は」
「いいえ。けれど、、、集まってしまう。もう、、、押さえて」
「そういうことですか」
声に振り向いた2人の前に闇戯がいた。
「あなたに嘘をつかれるとは思いませんでしたね」
「勝手をして申し訳ありません」
ジャステアは膝を突いた。その前にイーリスが出る。
「闇戯、責めなら私に。この声を届けようとしてくれたんです」
「ジャステア、玉をこちらに」
「待ってください。もう少し話を」
「これ以上は必要ないでしょう。
あの場所はかつての戦場で、眠れない同胞がいる。
白銀に伝えてあとの判断は任せればいい。違いますか」
私情を挟まない正論だった。
闇戯の言うことが正しいのはわかる。だが、イーリスは諦められない。
自分を求めて飛び出したこの想いを見て見ぬふりなどしたくない。
自分の手で決着をつけてやりたい。
あの場所がかつての戦場なら、ルトヴァーユの介入無しで。
イーリスは必死で食い下がった。
「闇戯、見逃してください。この声が私を求めているのなら
あの場所がかつての戦場なら私の手で決着をつけてやりたいんです。お願いします」
「闇戯様、、、、」
「まったく、、、」
イーリスならそうしたいと思うのも、予測の範囲内ではある。
だが一人で{嘆きの渓谷}を相手にするなど無茶としか言いようがない。
ならば力ずくで止めるか。
しかし、事が終わった後イーリスに恨まれるのは本意ではないし
イーリス自身が生きながら{嘆きの渓谷}彷徨うようなことになったら本末転倒だ。
と、青い鳥が3人の頭上にやってきた。そして声がした。
「その話、私も乗らせてもらえないかい」
「え、、、?」
「今の、、、あの鳥ですか?闇戯様」
「聞こえましたよ。鳥ではないのでしょう。誰です」
鳥はゆっくりと下りてくる。
その輪郭が人の形へと変わっていった。
現れた姿にイーリスとジャステアは思わず息を呑んだ。
滅多なことでは驚かない自信のある闇戯も、これには表情を変える。
顔は現白銀のルトヴァーユにそっくりだった。
だが宿してるのは黒の双翼。
「話の途中にすまないね。元向こう側の住人で
鳥の姿を得た今はこちら側にいる。名は李凰」
「李凰、、、、まさか、その名は」
ジャステアの後を闇戯が継いだ。
「負け知らずの総大将。あの李凰か」
その名は黒の軍を率いていた将の中でも、一際高名と謳われた。
後に戦神と呼ばれるまでに。
闇戯、イーリスともにぶつかったことはないが
軍の将で名を知らない者はない。
「私も君たちの名は聞いているよ。白の中でも名将と言われていたろう」
「名前は知っていたけれど、ルトヴァーユ様にこんなに似てるなんて」
イーリスにはこちらの驚きが大きかった。
「まあ、それは偶然だけれどね」
「それで、この話に乗りたいというのはどういう意味です」
すでにいつものように落ち着きはらった闇戯が問いかけた。
「そのままだ。あの場所を叩くつもりなら私も加えてもらいたいのだが」
李凰が答えを求めているのは闇戯。黙ったままの闇戯に言葉を続ける。
「闇戯、君の心配もわかるつもりだよ。一方で、イーリスの望みどうりにしてやりたい優しさも。
どちらも本物だから迷うんだろう」
「他人の感情を、わかったように勝手に推し量らないでもらいたいですね」
返した言葉は穏やかだが、声音は厳しい。だが否定ではなかった。
「白と黒の将、、、イリース様、皆様、、どうか」
玉の声は必死に訴えた。
「闇戯、お願いします」
「私からも頼む」
「ジャステア、玉を」
「、、、、、はい」
ジャステアからの玉を手にした闇戯は、優しく微笑んだ。
「追いかけたジャステアに感謝なさい。
私なら、何を言おうが散らしていましたよ」
「闇戯、、、、では」
「白銀の手は借りたくないのでしょう」
「ええ。出来ればルトヴァーユ様の介入無しで」
「白銀は私のほうで止めます。
ジャステアはイーリスに手を貸しなさい」
「闇戯様」
「李凰殿も2人と一緒に。それでいいですね」
「ああ、ありがとう」
「ただし、危なくなったらすぐに戻ること。白銀に恨まれたくはありませんよ」
手の中で淡い光が瞬く。
「あなたにも戻ってもらいます。結末を見届ける義務はあなたにある」
「はい」
決戦前の夜。星の天蓋が静かに見守っていた。