白銀の名のもとに


ルトヴァーユは小さな浮島に降り立った。ここに{嘆きの渓谷}への入り口がある。

何事も無ければただの静かな場所なのだが、今はうなり声のようなうめき声のような、重たい音が響いていた。

「強いな、、、、。今まで押さえた場所とは何かが違う」

「乗り込みますか」

乗り込むにしてももう少し体制を整えてからのほうがいいだろう。

中にいる想いが強ければなおのことだ。

「とりあえず押さえを強化しておきます。人員を揃えて出来るだけ早く入りましょう」

ルトヴァーユは門に向かい唱え始めた。

そこに3人も到着した。

「やっぱりここだったんだ」

「イーリス殿が気になったというのもここなんですか」

「ええ」

ルトヴァーユから下がった位置で3人は様子を窺っていた。と

「な、、、っ!」

「ルトヴァーユ様!?」

急に勢いを増した想いが強い力となり、門を破ったのだ。

中から一体が飛び出した。

「飛び出した方は追います」

ジャステアは飛び出した想いを追った。

ルトヴァーユは急いで封印をかけ直す。

飛び出したのは一体ですんだが
外に出ようとする力は今まで押さえたどの場所よりも強い。

「一体ここは、、、」

「他に気をとられると跳ね返されますよ」

言いながら闇戯は隣に立ち、同じように押さえにかかった。

「言ったばかりでしょう。やれることをやれる範囲でやるしかないと。今はここを押さえるのが先です」

「ルトヴァーユ様、私にも手伝わせてください」

「2人とも、、、お願いします」

白銀と精霊使い、そして精霊に創られた命。

3人の唱えに精霊が共鳴し、門の音がようやく止まった。

「ルトヴァーユ様、お怪我は」

「大丈夫です。ありがとう」

ルトヴァーユは門を見据えた。

押さえはしたが、これは一時的なものだ。

乗り込んで、中で押さえるか散らせるか。

どちらにしても心してかからなければ逆に飲まれる。

「ひとまず戻りましょう。人員を揃えて早く方をつけたほうがいい。
 飛び出したほうはどうなったかわかりますか」

「ジャステアが追いました」

「そうだ。何をゆったりしてるんですか。追わないと」

他人事のような闇戯にイーリスが慌てる。

だが闇戯にしてみれば一体ごときに手こずるジャステアではない。

儚げな容姿とは裏腹に
戦闘能力は軍の中でもトップクラスだったのだから。

「あの一体ごとき、手を出すほどではありません。
 儚げな容姿と釣り合わない戦闘能力の高さに
 誰もが驚きの声を上げたのだから」

不安や心配など感じさせない絶対の信頼だった。

言葉のとおり、ほどなくジャステアが戻る。

「遅くなりました」

「あの飛び出した一体、何かわかりましたか」

「いえ、、、それが」

闇戯の問いに珍しく言いよどんだ。

「追っている途中にもたなくなったのか、手を出さないうちに散ってしまいました」

おや、と闇戯は意外そうな顔を見せた。

「では、何もわからなかったと?」

責める物言いではなかったが、ジャステアは膝をつき深く頭を下げる。

「申し訳ありません。不手際の責めはいかようにでも」

今の闇戯とジャステアは、強い縦の主従関係だった。

2人の間にルトヴァーユが入る。

「ともあれ無事でよかった。立ってください。
 あなたにも助けられました。
 私一人だったら事態はもっと悪くなったかもしれない。」

「統括様、、、、」

イーリスも言葉を続けた。

「不測の事態だったのだから仕方ない。
 あなたを責めるなどしませんよ」

「闇戯、この場は私に免じて収めてください」

「まあ、向こうが自分から散ったのでは何もできませんね」

それに、白銀にこれ以上下手にでられても面倒だ。

「では後はお任せします。ジャステア、戻りますよ」

「はい」

「ではこれで」

軽い会釈をして2人は浮島を飛び立った。

「彼は強いですね」

「ルトヴァーユ様、、、」

「あなたたちが生きていた時代を私は知らないけれど
 戦の頃に軍を預かっていた将は皆そうなのかな。揺るがない、何かを持っているから」

門を押さえた力だけではなく、同時に強い精神力を併せ持っている軍の将。

ルトヴァーユはその強さが少し羨ましくもあった。だが他人を羨んでも始まらない。

闇戯の言葉通り、自分がやるべきことをやるしかないのだから。

「一度引き上げます。ここの対処を最優先にしますから、皆もそのつもりでいてください」

頷く一同に、心の中で深い礼を返すルトヴァーユだった。


キエヌの時間でいうところの翌日。イーリスに再びの来客があった。

「どうぞ」

「失礼いたします」

訪れた客はジャステア。

「座ってください」

「いえ、、、あの、できれば場所を変えたいのですが」

「それは、、、他に聞かれたくないこと?」

「はい」

「闇戯は知っているんですか?」

「こちらに伺うことも、お話したいことも伝えてはいません」

「、、、、、」

闇戯には知らせずに自分にだけ話したいこと。

まして他に知られたくないとなると、深い事情があるのだろう。

受ける自分にも深く関わるのだと、イーリスは気を引き締めた。

「では、、、キエヌへ。向こう側へ行きましょう」


   BACK   NEXT