


白銀の名のもとに
「お帰りなさいませ」
言いながら、イーリスは席を空けた。
「来客とは聞いたのだけれど、かまいませんか」
視線を向けたルトヴァーユに闇戯は丁寧な礼を返した。
「闇戯と申します。連れはジャステア」
「初めまして」
「初めまして。白銀を預かるルトヴァーユです」
「{嘆きの渓谷}が騒がしいと聞きましたが」
さらりと出た闇戯の言葉にルトヴァーユは顔を曇らせた。
「ええ。私の力量が及ばないばかりに、皆の手を煩わせてしまって」
「ルトヴァーユ様、お一人で抱えないでください」
「イーリス、、、けれど事実なのだから」
「(今の立場に迷いがあるということか)」
一歩下がったような押しの弱さの理由を、闇戯はこう結論づけた。
そして、ルトヴァーユが抱えている影が誰なのかにも思い当たる。
「不可能だとわかっていることに力をつぎ込むのは無駄ですよ。
やれることをやれる範囲でやるしかない。
白銀であろうがなかろうが、有翼であろうが人であろうがね。
私は、そう思いますが」
言葉こそ丁寧であるが、含ませたのは気遣いではなかった。
正論をまともに正面からぶつけることができるのは、揺るがない何かを己の中に持っているからともいえよう。
それは強さでもある。
今のルトヴァーユにとって足りないものかもしれない。
「闇戯、間違ってはいないけれど」
口を挟んだイーリスを気に止めず、闇戯は続けた。
「あまり考えすぎないでください。
でないと、輪を掛けてイーリスが心配します。
おとなしそうに見えて思い込むと頑固なところもありますから」
「な、、、いらないことまで言わないでください!」
「おや、、、違いますか?」
「それは、、あの、、、まったく」
イーリスをからかっているような闇戯だったが
真顔に戻るとルトヴァーユを見た。
受けたルトヴァーユも同じように向き合う。
「私もジャステアもイーリスと同じく争いの時代を生きました。
世界を守るという大義名分を理由に、同胞を失わせ失った。
白銀にとってこの世界の安定は責務でしょうが
世界と引き換えに大切な人を失わないよう、願います」
「大切な人、、、」
呟いたルトヴァーユは浮かんだ名前をとっさに払っていた。
闇戯は続ける。
「世界は案外丈夫に出来ているものですよ。あれだけ争ったのに、まだこうして続いているのだから」
闇戯の言葉にルトヴァーユは安心感を覚えていた。ふっと、何かが軽くなったような感覚。
「ありがとう」
短い一言ではあったが、込めた想いは強いものだった。闇戯はくすりと笑い、押しの一言をルトヴァーユに向けた。
「イーリスを泣かせないでくださいね」
「それはどういう意味で」
焦って返すイーリスだが、その横からは
「ええ、勿論」
当然とばかりにルトヴァーユは返す。イーリスは何も言えなかった。
と、珍しく駆ける足音がこちらへと向かってきた。
そして勢いよく扉が開く。
「統括様!」
「何事ですか」
「お急ぎください。{嘆きの渓谷}が急に」
和んでいた雰囲気がぴんと張る。
「わかりました。出ます。慌しくてすみませんがこれで」
視線だけ送り、ルトヴァーユは部屋を出た。
「闇戯」
「わかっています。追いかけたいのでしょう」
「ええ、、、あの」
イーリスは言いかけて言葉を止めた。
ルトヴァーユの助けになりたいのは私情であり
それに闇戯とジャステアをつき合わせるのは気が引ける。
だが、そんなイーリスに闇戯はわかっていると頷いた。
「暴れだした場所が、イーリスが気にしている所と同じなら丁度いい」
「来てくれますか」
「片付けてしまいましょう」
「ありがとう。本当に心強いです」
「ジャステア」
「勿論、ご一緒します」
3人は後を追った。