白銀の名のもとに


それから数日後、闇戯とジャステアは有翼側にやってきた。

白い翼と黒い翼が並ぶ光景に、ジャステアは戸惑いを隠せない。

「あの頃は争いが無くなることを願いもしたけれど、いざ叶うとあの子頃が夢のようですね」

「長すぎるほどの時間がたった。そう思うしかない」

「(闇戯様は停戦から今までを実際に見てこられた。人の側で命を繰り返してきた私とは違う)」

昔を知る者同士ではあるが、この違いは埋められない。

ジャステアは少しだけ寂しい気がした。

「見えてきましたね」

「あの、、城ですか?」

闇戯が指し示したのはルトヴァーユの居城。

イーリスがいるのはその離れなのだが
ジャステアが事情を知るはずもない。

「生きて、、、統括になられたとか」

「イーリスは争いの頃に黒に捕らえられ
 それからずっと封印された塔にいたんです。
 それこそ眠って時を止められたまま」

「、、、、、」

「停戦も何も知らず、やっと封印が解けて白銀に助けられた。
 今はその庇護の下で離れに住んでいるんですよ」

「争いの頃からずっと、、、、」

「あの頃を知っているとはいえ、三者三様。それぞれです」

話しているうちに門前に到着した。

2人に気がついた風の精霊が姿を現す。

「ここから先は統括の居城。用向きは」

「私は闇戯、隣はジャステアと申します。離れにいるイーリスに取次ぎを。
 私の名前を出してもらえればわかるかと思いますが」

「闇戯ですね。お待ちを」

門の中に風が流れる。待つことしばし。精霊が戻ってきた。

「どうぞ」

門が開き、2人は精霊に続いた。


「わざわざ来てくれるなんて嬉しいです。ありがとう」

2人をイーリスは快く出迎えた。

「変わりありませんか」

「ええ」

そしてイーリスはジャステアに目を向けた。

「初めまして。イーリスといいます」

「ジャステアと申します」

「彼もあの頃を生きた者。私のすぐ下で働いてくれていました」

「、、、、」

「お目にかかったことはありませんが
 名将としてのお名前は存じております」

「そうでしたか、、あなたも。どうぞ、かけて」


「あの頃を懐かしむつもりはないけれど、これだけの時間がすぎてまた同胞に会えるなんて思いませんでした。あなたは今何処に」

「人の側で、闇戯様と共に暮らしております」

「キエヌではないのですよね」

「あの場所は、、、、なんと申し上げればいいのでしょう」

「人目を避けるように山間にある隠れ里です。元々住んでいた者はあの場所を捨て置いた。
 私が移ったときは誰もいませんでした。今はジャステアと2人です」

「2人だけ?」

「ええ。静けさだけがとりえのような場所だけれど、特に不自由はしていません。
 風が木々を鳴らす音の中で杯をかたむけるのも悪くありませんよ」

あの頃はゆっくり酒を飲むことすらも難しかった。

静かな場所で月を眺めながらの酒もいいかもしれない。

「イーリスにも私たちのいる場所を教えておきましょうか。
 まさか、白銀の居城で宴席というわけにもいきませんしね」

「ええ。お願いします。
 そういう場所なら、ルトヴァーユ様も気が休まるかな」

 イーリスの言葉に闇戯が少し声音を変えた。

「白銀は最近忙しい?」

「ルトヴァーユ様ご本人から聞いてはいないけれど、おそらく。
 実は{嘆きの渓谷}が最近騒がしいんです。
 それを抑えるのも白銀の責務だと聞いたから。
 その中の一つが気になって」

「イーリス」

途中で闇戯が止めた。

「そこに何がいるかは知っているのでしょう。
 ジャステアにも言ったけれど
 自分から首を突っ込まないほうが利口ですよ」

「でも、もしもかつての同胞がそこにいるのなら」

「自分でどうにかしようなんて考えていないでしょうね」

「、、、もし、いるのなら眠らせてあげたい。
 あの頃を知って生き延びた私の言葉なら聞いてくれるかもしれない」

「人がよすぎます」

闇戯の答えは早かった。

「どれだけ集まっていると思うんです。1,2体ならともかく、一人で相手ができる数じゃない」

「、、、、、」

イーリスは黙った。闇戯の言いたいことはわかる。だが知らぬ顔でルトヴァーユに押し付ける気にもなれない。

”白銀の責務”その言葉で全ての判断と対処がルトヴァーユに向かうことが嫌だった。

と、黙った2人の間にジャステアが言葉を入れた。

「行ってみるだけでは如何ですか」

2人同時にジャステアを見た。

「もし昔を知る我々にしか気がつかない何かがあるのなら、報告として統括様に持っていく。
 これならば単独で何かをしたわけではありませんから、さほど影響はないかと思います」

「そうですね。その形ならお役に立てるかもしれない」

「イーリス、白銀のために何かをしたいのはわかるけれど」

「少しでも楽にしてさしあげたいんです。
 ご自身の存在を否定する、そんな悲しいことを考えてほしくないんです」

イーリスの中に残るのは”白銀は必要ないかもしれない”という言葉。

「白銀の責務という言葉で全ての判断と対処が
 ルトヴァーユ様のところに回ってくる。
 もちろん、それが役目だということはわかっています。
 けれどお一人で背負うには大きくて重い。
 出来るなら少しでも軽くしてさしあげたいんです」

「闇戯様、もし同胞が眠れずにいるのなら
 私も手を貸すことが出来ればと思います」

「やれやれ、、、2対1か」

もし昔の同胞がいるとしたら。

その同胞が同じ時代に生きていた自分たちを認識したら。

かえってその方が{嘆きの渓谷}を悪化させる可能性もある。

だがこのイーリスの様子だと一人で動こうとするかもしれない。

ならばまだ、手前まで行くだけのほうが安全だろう。

「わかりました。本当に行くだけで何もしませんからね」

「ありがとう」

ほっとした様子のイーリスに、ジャステアもにこりと頷いた。

話が一区切りついたところでノックの音がした。

「お戻りかな」

ルトヴァーユ以外の誰かなら、ノックではなく取次ぎの連絡になるはずだ。

イーリスの思ったとおり、少しの間をおいて扉を開けたのはルトヴァーユ本人だった。


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