白銀の名のもとに


湖を介し同時に存在する2つの世界。その片側には翼を宿す者が住んでいる。

浮島で成り立つその世界には「嘆きの渓谷」と称される場所があった。

怒り、悲しみ、嘆き。

あまりにも強い思いを抱え、体という器を失ってなおも精神のみが揺らぐ空間。

普段は有翼が住む中でも隔離されているのだが、まれに暴れだす時がある。

いつもの事だと思っていた。始まりは、、、。


「白銀の命令と権限において、永遠を与える。戻ることのない無に還れ」

「ウ、、グウゥ、、」

「もう眠っていいんですよ」

「眠れる、、、やっと、、、」

どす黒いもやは白く淡い光に変わっていく。

最後の時に暖かな光を取り戻し、ルトヴァーユの前から姿を消した。

「お休みなさい」

その残像に優しく呟いた。

全ての有翼の頂点に立ち
白銀の翼を有する{白銀の統括}ルトヴァーユ。

絶対かつ大きな権限を持つ代わり、有翼全体に対する責務も重い。

唯一絶対の権力者であり、同時に孤高の存在であった。

場の安定を感じ、散っていた数人がルトヴァーユの元に戻ってきた。

「皆無事ですね。ご苦労様でした」

「恐れ入ります。しかし。ここ最近続きますね」

一人の言葉に皆が頷いた。

「嘆きの渓谷」が不安定になることは珍しくない。

だが、その頻度と思いの強さが急に増していた。

「前任カルサイト様の時はこれほど、い、いえ、、あの」

慌ててつくろう白の双翼にルトヴェーユは静かに返す。

「本当のことなのだからいい。
 私の力及ばず皆の手を煩わせてしまいますが、これからも手を貸してください。
 ここは片付いたのだから、ひとまず戻りましょう」

飲み込んだ先の言葉は、向けられた己が一番よくわかっているのだ。

何かを振り切るように、ルトヴァーユは飛び立った。


本城に戻ったルトヴァーユを待っていたのは報告書の束だった。

目を通し決済が必要なものと不要なものに振り分けていく。

その中の一つに手が止まった。

とある「嘆きの渓谷」が騒がしくなっている。

不安が大きくなる前に調査を願いたし。

「、、、、、」

「嘆きの渓谷」は一箇所ではない。

一斉に叩こうとすればそれなりの人数を必要とする。

だが相手が相手だ。

思いに飲み込まれて、逆に囚われでもしたら本末転倒である。

「あなたなら、、、、」

前任カルサイトならどう対処したのだろう。

無意味な問いだとわかってはいる。

だが、ルトヴァーユはその影を拭えなかった。

「早めに戻るか」

一つ深呼吸をし、報告書に向き直った。


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