月詠


樹荊と冬牙を中心に、懸命な復旧作業が続いた。青藍も自分の足で町を歩き、出会う人々を励ました。

緩やかではあるが、町は以前の姿を取り戻していった。

そんなある日。


「町もようやく落ち着いてきましたね」

「青藍が町に出てくれるから皆も励まされている。ありがとう」

「皆が力を合わせてくれるからですよ。
 一人の力は小くても、集まればこんなに大きくなれる」

「青藍、、、、、いや、月詠様」

その呼び方に、トクンと胸が鳴った。

ここには自分と冬牙しかいない。

なのに月詠と呼ぶのなら、求めているものは断罪。

「町も落ち着いてきました。
 私に対する審判を頂きたく思います」

「、、、、、」

月詠を曲げたと告白を受けたあの日。

牢破りの人質となり
更に震災と続いたためうやむやになっていた。

このまま何も無かったことに出来ればと思いもしたが
それでは、いずれ冬牙と向き合えなくなる。

「そうですね。互いのためにも、はっきりさせなくては。
 樹荊にも入ってもらいたいのだけれど、いいですか」

「はい」

2人は樹荊の部屋に向かった。





「おや、そっちに行こうと思ってたけど先を越されたか」

「これからのことで少し」

樹荊の視線は冬牙に向いた。

「断罪を願い出た。そんなとこだろう」

「わかるか、お前なら」

「町も落ち着いてきた。
 そろそろ言い出すんじゃないかと思ったよ」

「立ち会ってもらえますか」

「、、、、わかった」

冬牙は青藍の前で膝を折った。

冬牙に青藍が投げたのは、審判ではなく問い。

「このまま私の隣にいることは、辛いですか?」

「青藍、、、、?」

「何に対しての断罪を求めているの?」

「何を」

青藍がわからぬはずはない。なのに、何故問うのだろう。

青藍だからこそ哀れみなど受けたくなかった。

「私は月詠を曲げたのです。どうぞ、お裁きください」

「いいえ」

青藍は言い切る。

「実際、桂は落人が建てた村。
 桂の人間が宮に入り、私を狙ったのも事実です。
 ただ、攻め込む前に話してほしかったけれどね」

「青藍、、、、」

「月詠は拠り所。
 ただの飾りだとしても、例え傀儡だとしても
 私がいることで、国の大多数が安心するのならいい。
 他の誰かを月詠として立てたいのなら
 それでもかまいません」

「青藍、月詠を捨てることが望みだったの?
 あたしたちが青藍を傀儡だと思ってるって
 そんなこと本気で言ってるのかい?」

「月詠として求められている限り、月詠として生きる。
 そう決めて戻ってきました。
 心が決まったのは、2人がいてくれるからなんですよ。
 今までこの宮で過ごした時間、そしてこれからを信じたい」

涙が止まらなかった日、優しい陽だまりに包まれた昼下がり。

どんな時でもいてくれた2人。

大切な、あたたかいものを自分に与えてくれる。

青藍は己の胸を包み込むように、そっと手を当てた。

「優しくてあたたかいものを与えてくれる。そんな2人だから」

「、、、許してくれるのか」

「冬牙、これからもあなたにいてほしい。
 それが、私の望みです」

「ありがとう、青藍。
 月詠をやめたくなったら、あたしも一緒に引退するかね。
 そして静かな田舎暮らしなんてどう?」

「樹荊、、、、ふふ、それも悪くないかな」

「私は、、、、、」

「冬牙、あなたが苦しいのなら無理にとは言いません。
 でも、もう少しだけ考えてみて」

すれ違いざま冬牙の肩に手を乗せて、青藍は部屋を出た。



















「さて、どうする」

「許されるのか、、、、私のしたことは」

「青藍は許してる。あたしの答えも欲しいなら、許すよ」

「樹荊、、、、」

「あとは自分で自分を許せるかだろう。
 もう少し、自分に対して甘くなりな」 

「、、、、、、」

「あたしと青藍が言えるのはここまでだ」

「そう、、、だな」

青藍と樹荊の心は受けた。あとは己の心を決めるだけ。

「、、、、、ありがとう」

受けた樹荊は優しく頷いた。

2人の想いを強く抱きとめ、冬牙も前へ歩き出した。

更に数日後。

「樹荊」

「答えは出たのかい?」

「ああ」

今まで過ごした時間。

3人でいることが当たり前だった日々。

ここ数日で、それらの残像が冬牙の中を巡った。

そして冬牙が出した答えは
最後まで青藍の傍らで力を尽くすこと。

「これからも」

「ちょっと待った」

「樹荊?」

「ここじゃなくて場所を変えない?
 桂の一件に決着をつけるなら、いい場所があるんだ」

「どういう意味だ」

「青藍にも見せたい景色」

「まさか、桂に」

「いや、桂じゃない。今夜、案内するよ」

「、、、、あまり待たせないでくれ」


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