



月詠
無言のまま歩き続けしばらくすると、ガサリと木々が鳴った。
「追いついたか。月詠ならここだ!」
「東雲!?」
その声を聞きつけ兵が2人を囲む。
そして樹荊と冬牙が前に出た。
「お前さんならいい武官になると思ったのに、残念だよ」
「月詠様を人質にとって牢破りとは、いい度胸だな」
「硝輝はどうした」
「生きてる。お前さん自身のためにも、ここまでにしておくれ」
東雲はこれが最後と青藍に問う。
「本当に月詠として生きるんだな」
「、、、、、はい」
答えた青藍も後戻りはしないと誓った。
青藍が東雲の手を離れると同時に東雲が取り押さえられる。
「戻ってくれるんだね。ありがとう」
「樹荊、、、、」
2人の前に戻ったその時だった。
「ぐ、、、うぁ、、」
「青藍!?」
急に頭が痛みだした。締め付けられる。
「どうしたの、しっかり」
「月詠様!」
「まさかこやつが」
東雲が何かをしたのかと兵たちが殺気だつ。
そんな面々に冬牙はけん制を入れた。
「落ち着け。そいつに構うな」
「、、、、じゅ、、け、、」
「いるよ。冬牙もちゃんと」
「聞こえる、、、な、、、に、、、」
「ここで月詠を?青藍、何するつもりなの」
「ち、、、がう、、、」
読もうとしているのではない。なのに聞こえてくる。
「とにかく戻るぞ。樹荊、抱えられるか」
「ああ。軽いものさ。青藍、つかまってて」
抱き上げようとしたその時、青藍に見えた。
「あ、駄目です!みんな動かないで!」
大地が揺れた。
青藍の耳に届いたのは、逃げ惑う人々の声。
建物が崩れた町の景色。
「冬牙様、あれは」
兵の一人が町の方向を指した。煙が立ち上っている。
「火が、、、皆無事か」
そこに再度、ガラガラと崩れる音がした。
「まさか、、、、道が」
「そんな、、、、」
口々に不安がついて出る。すがった先は月詠だった。
「月詠様」
「どうすれば、、、お助けください」
この光景が拠り所としての月詠の姿。
東雲は黙って成り行きを見ていた。
「落ち着いて下さい。戻る道は読みます」
「無茶を言うんじゃない。させらるわけないだろう」
樹荊の声が大きくなる。
「宮の月詠でさえ、精神的な負荷は避けられない。
牢破りの人質になったうえ、今無理に読んだら
どれだけの負担がかかると思うんだ。
先行きを立てて、宮まで必ず無事に帰すから」
臣の前はあったが、言葉を選んでなどいられなかった。
その心に感謝をし、青藍は月詠として伝える。
「今は全員が無事に戻ることを最優先させます。
樹荊、私なら本当に大丈夫だから」
「青藍、、、、」
「けれど、これだけは忘れないでください」
見渡す青藍の視線に静まり返った。
「読むことは出来ても、私が皆を抱えていけるわけではない。
歩くのは己の力です。
同じように、私の月詠だけで物事が解決するのではなく
あくまでも道筋を示すだけ。私の力など小さなもの」
青藍は一呼吸置いた。
「私を信じてくれるのなら、同じように自分のことも信じて。
周りにいる人たちを。そしてこれからも、力を貸してください」
月詠としての揺るがない信念。
守られる立場ではなく、真に導く者の姿だった。
「、、、、いつの間にか強くなってたんだね、青藍」
「樹荊、、、あなたたちがいてくれたからです」
「育て方がよかったってことか」
樹荊は青藍の前に膝をついた。
「月詠様に変わらぬ忠誠を」
その言葉に冬牙も倣う。無論、他の兵も。
「みんな、、、、」
「さ、道が悪くならないうちに急ぐよ。
大切な人のところに駆けつけたいだろう」
樹荊は青藍の傍らに立った。そして小さくささやく。
「でも、可愛い弟のつもりでいること許してくれるかい」
「ええ、もちろん。何も変わりません。冬牙も」
樹荊の手に自分の手を重ね、冬牙に微笑む。
冬牙もまた同じように返した。
「月詠様、お願いします。
あなたが月詠様であることを誇りに思います」
「冬牙、、、、必ず全員無事に戻りましょう」