



月詠
「話してもらうよ。こうなること、わかってたんじゃないのかい?」
樹荊の口調は静かだった。
だが、胸には炎の如く揺らいでいるものがある。
冬牙もまた、黙りとおすつもなどなかった。
「東雲が羽百合の花を使ったと聞いて
桂の出じゃないかと思った。あの花は、桂の特産だからな」
「西の秀麗山の近くだね。
桂の人間が青藍を襲う理由は」
「まだ青藍がここに来る前
国を二分するかのような混乱を覚えているか?」
「、、、、、覚えてるよ。
宮での意見対立がいつのまにか国全体を巻き込んだ。
争った一方が対になっていた宝玉の片割れを持って逃走。
恨みつらみと呪いまがいを置き土産にってやつだろう」
宮での意見対立を発端として、国が荒れた時期がある。
臣下たちは二分し互いをけん制。
対立のまま平行線をたどり、施政は滞った。
当然治安は悪化し
ついに一方が対立する相手を攻めたのである。
長い混乱の時がすぎ
追い詰められた勢力は対になっていた宝玉を持って逃走。
恨みつらみの言葉をしたため、最後に復讐を誓って。
「桂は、その逃亡者が建てた村だ」
「、、、、、、」
「先代もその行方を気にしていた。
そんな時に何もなかった桂に人が集まり始めた。
慎重に内偵を進めたら、奪われた宝玉が発見された。
月詠であの近くに災害ありと出たとき、一緒に叩いたんだ。
まさか、その桂の人間がここに入り込むとはな」
「、、、、全部独断でやったのかい?
あたしにも青藍にも、何も言わずに?」
「言えば、反対したろう?」
「だからって」
青藍のため。嘘ではないだろう。だが性急すぎる。
「どうして独断で動いたりしたんだ。
話し合うことだって方法の一つだろう。
青藍から見れば、月詠を利用されたんだよ。
青藍を傷つけてまで」
バタンと音をたてて扉が開いた。
「月詠を曲げたのは、本当のことですか?」
「青藍、東雲と」
「樹荊は黙っててください」
青藍は冬牙だけを見ていた。
「西の秀麗山。
あの近くで災害ありとの月詠は出しました。
桂に反徒あり、この月詠も私が出したんですか?」
「桂で何があったのか、東雲から聞いたんだな」
「冬牙、、、、」
「樹荊にも知らせていない。私が一人で動いたことだ」
否定も、言い訳すらもなかった。
「どうして、、、、どうしてそんなこと!」
「、、、、、、」
「理由があるのでしょう?
理由もなしに襲うなんて、冬牙はそんな人じゃない。
どうして何も話してくれなかったんですか?冬牙!」
「、、、、私も罪人だ」
「冬牙、、、、」
「何のつもりだい。
あたしに言ったことそのまま言えばいいだろう」
「私の月詠は、ただの道具だったの?」
涙が止まらない。
「信じてた、、、、。
2人だけは、何があっても味方になってくれるって。
私のことを名前で呼んでくれる。
月詠ではない私も見てくれるって、信じてたのに、、、、」
長い夢が醒めたような気分だった。
信じてきたものは、甘い残酷な幻。だが、それでも
「それでも、、、、ありがとう、冬牙。
あなたがいてくれたから、やってこられたのは事実」
「青藍、、、、、」
「これからのことは、改めて考えます」
青藍は部屋を出た。その背中に深く頭を下げた。
「、、、、、馬鹿」
「月詠を曲げたことに変わりは無い」
「そういうつもりだったのか。独断で実行して
公に出たら一人で責任を負う覚悟だった」
「憎まれ役は一人で十分だろう。青藍を頼む」
「まったく、みずくさいことしてくれる。
いつから一緒にいると思ってるのさ」
「お前だから、青藍を任せられるんだよ」
「冬牙、、、、」
「どのみち私だって、処罰を受ける身だ。
お前まで同じことになったら、誰が青藍を守る」
「同じ守るでも、方法は考えるんだね」
「私はいいから、青藍の傍にいてやってくれ」
青藍を守りたい想いが同じなら
このまま冬牙を失いたくない。
「このまま引退なんてさせないよ、絶対に」
「樹荊、、、、」
樹荊の言葉は、重く力強く響いた。